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第10の皿 鎮魂のチリコンカルネ
ピーター・フォークさんが亡くなった。
アルツハイマー型認知症を患っていたという。
あのコロンボ警部が・・・残念でならない。「うちのかみさんが」というセリフが有名だが、
劇中に当のかみさんは一切登場しないし、彼が家庭でくつろぐシーンすらない。
食事はもっぱら、聞き込み捜査の合間に済ませる。
ベテラン刑事のお気に入りは「チリ」だ。どの店に行っても、この料理を注文する。
片手でクラッカーを砕き入れながら、
店の主人と他愛ない会話を楽しむのがパターンだ。この料理の発祥はメキシコだが、アメリカでは「チリコンカーン」と呼ばれる。
国民食のひとつらしいので、日本のカレーライスのような存在かもしれない。
高級レストランで、メニューにないチリを所望してウエイターを絶句させ、
特別に作らせたチリのお代の高さにコロンボが絶句するシーンがあるので、
かなり庶民的な料理であることは間違いない。チリコンカルネはスペイン語での呼び方で、
チリは唐辛子、カルネは肉、コンは「〜と一緒に」という意味で、
要は「肉のピリ辛煮込み」なのだが、必ずと言っていいほど、豆が加わる。
一般的なのは、赤いんげん豆(キドニー・ビーンズ)である。チリコンカルネ(6皿分)
金時豆(あればキドニービーンズ) 250g(水煮缶もしくは乾物)
牛ひき肉 200g
たまねぎ 3個(みじん切り)
セロリ 2本(みじん切り)
にんじん 1本(みじん切り)
しいたけ 6枚(みじん切り)
いんげん 10本(0.5cm幅に切る)トマト水煮缶 1缶
白ワイン 100cc
水 400ccオリーブオイル 大さじ2
にんにく 2かけ(みじん切り)
赤唐辛子 1本(みじん切り)
チリパウダー 大さじ3
オレガノ 小さじ1
クミンパウダー 小さじ1/2
シナモンパウダー 小さじ1
パプリカパウダー 小さじ1
ココアパウダー 大さじ1
塩 小さじ1
こしょう 少々- 豆が乾物の場合は、前日から鍋に入れ浸水させておき、翌日の調理開始時に煮立たせ、アクが出た水を捨てて流水ですすぎ、鍋も洗っておく。
- フライパンにオリーブオイルを引き、にんにく、赤唐辛子を香りが出るまで炒め、ひき肉を加えてしっかり炒める。ひき肉から出た水分をキッチンペーパーに吸い取らせ、完全に取り除いてから、鍋に移す。
- フライパンでたまねぎ、にんじん、セロリ、しいたけ、いんげんの順に1種類ずつしっかり炒め、鍋に移す。
- 鍋にトマト水煮缶と白ワイン、水と豆、調味料を加え、ふたをして弱火で2時間煮込む。
警部の冥福を祈りつつ、クラッカーを砕き入れながら食べよう。
もしくはトルティーヤ・チップスを添えてもよい。
また、マカロニなどのショートパスタとも合うし、クスクスのソースとしてもいける。
焼きソーセージとともにパンに挟めば、チリドッグである。なお、乾物の豆を使う場合は、必ず前日より浸水させること。
特にキドニービーンズは、半日浸けた後でも、
2時間煮込まなければ柔らかくならない。
水煮の豆なら工程1は省略でき、煮込み時間もさほど取らなくても大丈夫である。
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第9の皿 魚はひらがな、かつおの和風カルパッチョ
Q. ひらがなでの表記をほとんど見かけない単語がある。それは何か?
(答えはコラムの最後に)魚は、漢字でもひらがなでもカタカナでも書き表せるが、
私はもっぱら、ひらがな表記を好む。
理由は、ひらがなの方がおいしそうに思えるからだ。カタカナ表記は、生物(セイブツ)を連想させる。
漁獲される以前、つまり食べ物ではない、
生き物としての姿が浮かび、後ろめたさを覚えてしまうのだ。つくづく、人間は罪深い生き物だと思う。
「いただきます」という言葉は、獲った人や調理した人への感謝ではなく、
「命をいただきます」の意味という。
いただくからには、せめて精一杯、おいしくしなくては申し訳ない。さて、今回の題材の、かつお。
おすすめは、カルパッチョである。
獲れたてはいざ知らず、スーパーで売られているものなら、
これが最もおいしい食べ方と思っている。かつおの和風カルパッチョ
かつおのたたき 1さく(1cm幅に切る)
大葉 3枚(細切り)
みょうが 1個(細切り)
オリーブオイル 大さじ2
ぽん酢しょうゆ 大さじ2
白すりごま 少々
ゆず顆粒(ゆずの皮を粉末加工した調味料) 少々- かつおを切り、皿に並べる。
- 刻んだ大葉とみょうがを散らし、オリーブオイルとぽん酢しょうゆを振り掛ける。
- 10分ほど冷蔵庫で冷やす。
- 白すりごまとゆず顆粒を散らす。
この食べ方は、さほど鮮度を問わない。
なので、時季外れの解凍ものでも、おいしく食べることができる。
もっとも、みょうがが大きなポイントとなるため、
みょうがが出回らない季節に作ることはない。表記の話に戻るが、かつおの場合、カタカナで書かない理由がもうひとつ。
カタカナだと、日曜の夕方によく見かける、坊主頭の少年を思い出してしまうからだ。冒頭のクイズの答えは、
A. かたかな
統計を取ったわけではないが、私はこの表記を見たことがない。
カタカナで書かれた「ヒラガナ」も、また同じである。
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第8の皿 非常時のパエリア
カセットコンロを買った。
インドア派の私には無縁の品だったのだが、
防災用として絶対に買っておくべきものと思えてきたからだ。
災害時に最も復旧が早いインフラは電気だそうだが、
それでも6日前後かかると、何かの本で読んだことがある。温かい食べ物は、力が出る。
被災された方々から多く聞かれる声が、火を通した料理のありがたさである。
あくまでも自宅が大きく損壊しなかった場合を前提としての話だが、
災害時に作れそうな料理を考えておくことは、決して無駄なことではないはずだ。常備している食材の中から、出来そうなものを検討して、パエリアをやってみようと考えた。
何しろ米料理。お米は、日頃から切らさぬよう、一定量を備蓄してある。
本場バレンシア地方ではうさぎや鶏などの肉と山の幸を使うパエリアだが、
日本人にはムール貝やえびなどの海の幸がたっぷり入った印象が強い。さて具材だが、魚ながら鶏肉の食感も得られるツナ缶が、まず使える。
また、魚介類として、ほたて水煮缶と干しえびを。
そして、野菜の代わりとして、乾燥わかめを使おう。かなり和風に傾いているメンバーであるが、
サフランを使って黄色いお米に炊き上げれば、パエリアらしく見えるかもしれない。
ガスも貴重になるので、4人分をまとめて作ろう。なお、本来のパエリアは生の米を炒めたのち、ふたをせずに炊き上げるのだが、
米に芯が残る失敗を避けるべく、安全策を取る。
米は浸水させ、ふたをして炊き上げる、ピラフの調理法で行くことにする。非常時のパエリア
米 2合(2時間浸水させ、調理30分前にざるに上げておく)
オリーブオイル 大さじ1
にんにく 1かけ(みじん切り)
たまねぎ 1/2個(みじん切り)ツナ缶 1缶
ほたて水煮缶 1缶(汁ごと入れる)
干しえび 大さじ1
乾燥わかめ 1つかみ水 270cc
白ワイン 90ccコンソメの素 2個(刻む)
サフラン 1つまみ(白ワインに漬け、色を出しておく)
パプリカパウダー 少々
ローリエ 2枚
ドライパセリ 少々
レモン果汁 お好みで他、残っていた野菜
- フライパンにオリーブオイルを熱し、にんにく、たまねぎの順に炒め、しんなりしたら米を入れて色が透き通るまで炒め、パプリカパウダーを振る。
- 白ワインとサフラン、水を入れ、米が同じ高さになるよう均してから、缶詰の中身と干しえび、乾燥わかめとコンソメの素、ローリエを載せて塩・こしょうを軽く振り、ふたをして強火で加熱する。
- 沸騰したら弱火に落とし、15分煮続ける。火を止めて、ふたをしたまま15分ほど蒸らす。
- ドライパセリとレモン果汁(お好みで)を振り掛ける。
「非常時」という割には食材が多いが、
お米と水、ツナ缶さえあれば、それなりのものが出来るはず。
コンソメの素を顆粒のだしの素に変えれば、炊き込みごはんも可能だ。このパエリアを盛るために、紙のお皿を用意しておこう。
平時にはもったいない紙皿だが、断水時にはかなり役立つはずである。
“プロのためのスーパー”だと安くまとめ買い出来るので、備蓄をおすすめしたい。
我が社の近くにあるお店では、地階のいちばん奥にある。
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第7の皿 日々精進のミネストローネ
東日本大震災で被災された皆さまに、心よりお見舞い申し上げます。
その青年は、日々研鑽を重ねて進化しているが、
彼の食生活は、おそろしいほど変化に乏しい。
朝食は、コーヒーショップのサンドイッチか、ハンバーガー。
昼食は、基本的に外食だが、忙しい時は朝と同じパターンになることも多い。
夕食は、コンビニの調理済みパスタがお気に入りで、
残業時はもちろんだが、早めに帰宅できた時も、それは変わらない。
ビタミン不足が懸念されるが、
その分は野菜ジュースで補っているので大丈夫、と思うんですけど・・・
と、自信がありそうでなさそうな独特の言い回しで否定する。青年の姿は、昔の自分にどこか重なる。
炭水化物過多の食事でも、若い頃は代謝がいいので、
すべてをエネルギー源として消費することができる。
だが、いくら食べても太りにくい幸せな時期は、
長い人生の中で、ほんのわずかな間に過ぎないのだ。今思えば。やっぱり、野菜を添えてほしいと思う。
生野菜やジュースもいいが、できれば、熱を加えた野菜を。
煮物系の惣菜を買って補う手もあるが、和食が中心となるので、パン系との相性が悪い。
そこで、おすすめなのがスープである。
トマトの水煮缶を使って、ミネストローネを作るのだ。ミネストローネ(簡易版)
たまねぎ 1個(みじん切り)
にんじん 1本(みじん切り)
セロリ 2本(みじん切り)
しめじ 1パック
にんにく 2かけ(みじん切り)オリーブオイル 大さじ2
トマト水煮缶 1缶
水 800cc(トマト水煮の空き缶2杯分)
コンソメの素 2個
塩 少々
こしょう 少々- 鍋にオリーブオイルを入れ、にんにくをとろ火で香りが出るまで炒めたら、たまねぎ、にんじん、セロリ、しめじの順に弱火で色が透き通るまで炒める。
- トマト缶と水、コンソメの素を入れ、まんべんなくかき混ぜてから、ふたをして火に掛け、グラッとしたらとろ火に落とし、1時間以上煮込む。
- 塩、こしょうで味を調える。
本来ならチリパウダーやハーブ類なども加えるのだが、
調味料を常備していない人に向けた簡易版とした。
ただ、あくまで私見だが、にんじんとセロリとにんにくが入ると
ミネストローネっぽさが一気に高まるので、ぜひ加えてほしい。
それ以外は、味の好みとその時の価格、刻みやすさなどを基準に、何を加えてもよい。
じゃがいもやキャベツもいいし、ベーコンやソーセージ、えびや貝などを入れてもいい。具が多ければ多いほど味は深くなるが、すべての具材をしっかり炒めないと逆効果なので、
具が多い時は1食材ずつフライパンで炒めてから鍋に移し、煮込みの時間も長く取るとよい。週末の1〜2時間を使って5〜6杯分をまとめて作り、鍋ごと冷蔵庫に入れておこう。
毎日1杯分ずつ温めて朝に食べてもいいし、
マカロニなどのショートパスタを入れて煮込めば、立派な晩ごはん。
また、ごはんと粉チーズを入れて煮込めば、上等なリゾットにもなる。コンソメの素が入らなければ、ほぼ精進料理とは言えるほど野菜たっぷりで、
自然のエネルギーに充ち満ちたスープである。
この力でさらに精進して、よいコピーを書くのだ青年。
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第6の皿 酢飯の記憶、海鮮丼
その昔、日本中の子どもたちから羨ましがられた少年がいた。
自営業の彼の家は、なぜか毎年のように商売替えをするのだが、
すし屋、ケーキ屋、おもちゃ屋、パン屋、カレー屋など、
「こんな家の子に生まれたかった」と思わせる店ばかり。
その少年の愛称は「ケンちゃん」。
1970年代を中心に放映されたTVドラマシリーズの主人公である。サラリーマン家庭に生まれ、ケンちゃんの境遇に憧れていた私だが、
彼が味わっていた幸せが、突然我が身にも訪れた。
叔母がすし職人のもとに嫁いだので、私は「すし屋の甥っ子」の座を手に入れたのだ。叔父になった人が生まれ育った雑司ヶ谷の近くに構えた店に、
祖母に連れられて横浜からよく通った。
私の祖母は、叔父にとっては「お義母さん」なので、行けば常に超VIP待遇である。
カウンターに座って、好きなネタを好きなだけ、お代を気にせずに注文できるのだ。
叔父は気っぷがよく、子宝に恵まれるまで時間がかかったこともあって、
私をずいぶんかわいがってくれたのだが、
さすがに「カウンターで食べ放題」だったのは、明らかに”嫁の母”の威光だろう。
私の食に関する記憶の中で、最上位を争う幸せな思い出である。今はもう店もなく、叔父も鬼籍に入ってしまったが、
のれんをくぐった時に鼻孔をくすぐる、すし屋独特の酢の香りを時々思い出す。
そして、「すし屋の甥っ子」の座を失った私は、身の丈に合った酢飯の味を楽しむ。
スーパーで半額の値札が貼られた刺身を刻んで、海鮮丼を作るのだ。海鮮丼(1人前)
お刺身盛り合わせ 1パック
ごはん 1杯分
すし酢 大さじ1
白ごま 大さじ1
大葉 2枚(せん切り)
みょうが 1/2個(せん切り)
海苔 1/4枚(揉む)
しょうゆ 少々
わさび・おろししょうが お好みで- ごはんを丼に盛り、みょうが、大葉、すし酢、白ごまを混ぜ合わせ、少し冷ます。
- 海苔を散らし、刻んだ刺身を載せ、しょうゆを掛ける。お好みでわさびやしょうがを添える。
ごはんは、惣菜コーナーのパックものでも、レンジ加熱で炊けるレトルト品でもよい。
みょうが、大葉、白ごま、海苔は、あればとてもおいしくなるが、すべて揃っていなくてもよい。
絶対条件は、お刺身とすし酢だけ。食塩と砂糖、昆布だしがほどよく調合されているすし酢は、
酢飯はもちろんだが、酢を使うさまざまな料理に重宝する。
常備して損のない調味料である。