• 第105の皿 足で稼いだ、大根のフェットチーネサラダ

    平成元年デビューなので、昭和時代にはプロではなかったのだが、

    入社が決まった時分はまだ昭和だったし、

    影響を受けた諸先輩方がみな昭和の世代なので、

    自らも「昭和のコピーライター」だと思っている。

     

    当時読んだ本によく書かれていたのが、

    「コピーライターの仕事は、デスクワークとは限らない」。

    アイデア出しやキャッチコピーなどのシンプルな作業は、

    机に座っていれば浮かぶわけではない、というものだ。

     

    この考えに影響されて、同様の作業を抱えた時は、

    とにかく街を歩き回るようにした。

    すると、なかなかの高確率でアイデアが浮かび、

    仕事がはかどることが多いのである。

     

    なにしろ、外を歩いている間は、本やネットなど、

    仕事から逃げるためのツールがないので、集中力は自然と高まる。

    屋外の空気に触れ、歩き回って血の巡りがよくなることも、

    デスクでは得られないコンディションを生むのだろう。

     

     

    大根のフェットチーネサラダ

     

    大根 1/2本(1本買って半分使う)

    ツナ缶 1缶

     

    マヨネーズ 大さじ4

    白すりごま 大さじ4

    みそ 大さじ1

    白ワイン 大さじ1

     

    海苔 1/2枚(千切り)

     

    1. 皮をむいた1本の大根をピーラーでスライスしていく。

    2. 水にさらしてからスピナーで水気を切る。

    3. ボウルに調味料とツナを入れ、2を加えてよく和える。

    4. 器に盛り、刻み海苔を散らす。

     

     

    街歩きに通りがかったパスタ店のウインドウを覗き、浮かんだ一皿。

    ソースがよくなじむ幅広なパスタ「フェットチーネ」を

    ピーラーで削った大根に替え、サラダ仕立てにしてみた。

    仕事とは違うが、足で稼いだ成果のひとつである。

     

     

     

    「CopyPe」終了に伴い、当コラムもこれにて幕となります。

    長らくのご愛読、誠にありがとうございました。

  • 第104の皿 3日がかりの豚汁

    週末はさまざまな料理をするが、

    大切な作業のひとつに「今週のスープ」作りがある。

    ここ数年、晩ごはんではお米を食べないため、

    汁物でおなかを満たす必要があるからだ。

     

    翌週に寒波が到来する予報があり、

    さといもをたっぷり食べたい気分になっていたので、

    冬ならではの汁物として、豚汁を作ることにした。

    週末までに大量の野菜を買い込んでおく。

     

    金曜の夜は料理はしないので、キッチンのスペースに余裕がある。

    ここで、豆腐の水切りをやっておく。

    レンジで3〜4分加熱したものに重いまな板を載せ、

    半分くらいの厚みになるまで水を切る。

     

    土曜の朝から、昼食の支度の合間に準備を始める。

    豚汁に限らないが、たいていの野菜は「切って」「炒める」に尽きる。

    皮をむくためにピーラーを使うので、大根とにんじんから始める。

    大根を刻んで塩を振り、フライパンで加熱したまま、次の作業へ。

     

    野菜は、とことん炒めて、水分を奪うのが基本線。

    ちょっと焦げ目がつくくらいまで炒めれば、

    水で煮たときに味が薄まることがない。

    にんじん、ごぼう、しいたけ、まいたけを刻んでは炒める。

     

    さといもは、とてもおいしいのだが、泥付きの皮をむくのが難儀である。

    豚汁最大のイヤな作業だが、ここを避けては通れない。

    まな板の上にチラシ広告を敷き、泥付きのさといもの底をカットし、

    立ててから側面を少しずつ切って皮だけを落としていく。

     

    子どもじみた包丁の使い方だが、泥を洗い落としたところで、

    料理人のような包丁さばきができるわけでなし、いた仕方ない。

    むいたさといもは、水にさらして汚れを取り、

    泥と皮だらけのチラシは内側に丸めて、そのままゴミ箱へ入れるのだ。

     

    こうして、すべての野菜を刻み炒めたら、水を張った大鍋に入れ、

    1時間煮ることを土〜日曜の間に3〜5ターンくらい繰り返す。

    そして日曜の夜、顆粒だしとみそを溶き、炒めた豚肉や長ねぎ、

    手でちぎった豆腐などを入れて少し煮れば完成である。

     

     

    豚汁

     

    豚小間切れ肉

     

    さといも/大根/にんじん/ごぼう/

    しいたけ/しめじ/舞茸/長ねぎ/

    木綿豆腐/こんにゃく

     

    水/顆粒だしの素/みそ/ごま油

     

    七味唐辛子

     

     

    今回は、レシピを箇条書きではない形でまとめてみた。

    分量も書かないが、基本みそ汁なので、さほど難しいものではない。

    手間だけはやたらとかかるが、その分のリターンは確実に期待できる。

    寒い夜、七味唐辛子を多めに振っていただきたい。

     

  • 第103の皿 趣味の春雨サラダ

    料理は趣味じゃなく家事、というスタンスではあるが、

    「趣味の」という枕詞がついた料理がいくつかある。

    そのココロは「心の趣くままに作る、今食べたい味」というもので、

    マカロニサラダやサラスパ、ポテサラ、春雨サラダなどである。

     

     

    共通項としては、パスタやじゃがいも、春雨という、

    炭水化物をメインにしたカロリーの高そうなものばかり。

    サラダと言いながらヘルシーからは程遠い代物であり、

    さらに「おかず能力」はまったくないという特徴がある。

     

     

    おかず能力がないのだから、極論すると食卓に並べる価値がなく、

    まさしく「趣味で」、好き好んで食べるメニューである。

    健康的にはむしろ不要なものだから、それを食べるのはまさに趣味、

    食べること自体がエンタメという、心踊る食べ物である。

     

     

    春雨サラダ

     

    緑豆春雨 約160g

    きくらげ 2枚(湯で戻して細切り)

    にんじん 1/4本(千切り)

    きゅうり 1本(斜め切り→千切り)

     

    ハム 4枚(短冊切り)

    ヤングコーン水煮 2パック(10本)(縦切り)(※たけのこ水煮細切りでも可)

    かにかまぼこ お好みで(裂く)

     

    ごま油 大さじ1

     

    一味唐辛子 少々(七味でも)

    黒酢 大さじ3

    しょうゆ 大さじ3

    白ごま 大さじ1

    砂糖 小さじ1.5

    ラー油 お好みで

     

    1. 千切りにして塩(分量外)を振ったにんじんときゅうりを乾煎りして水分を出す。

    2. 10分ゆでた春雨を、ボウルに張った氷水で冷やして水を切り、ごま油を絡める。

    3. 1・2とその他の食材と調味料をボウルで和え、均等に味が入るよう混ぜ合わせる。

     

     

    つるつるでぷりぷりの食感が楽しい春雨は、

    緑豆でんぷんを主成分とした炭水化物。

    見た目はダイエットに向いていそうな顔つきをしているが、

    いも類の仲間なので糖質が過剰なほどに含まれている。

     

    一時、カップ麺の代用としてスープ春雨が流行したことがあったが、

    ダイエット効果はまったく期待できない。

    それどころか、てきめんに太るので、

    相撲部屋に入門を考えている人以外は要注意である。

  • 第102の皿 母の知恵と、卵ともやしとえのきだけの中華風炒め

    実の母親は、8歳の時に亡くなっているのだが、

    無口な人だったこともあり、あまり思い出がない。

    ただ、自分が料理するようになってから、

    母親は割と料理上手だったことを思い出すようになった。

     

     

    パンの耳を揚げて砂糖や塩をまぶしたおやつや、

    電子レンジでスポンジを焼いたケーキ、

    ミキサーで作ったみかんジュースなどの記憶もあるので、

    きっと料理は好きだったんだろう。

     

     

    伯母(母の姉)から後年、新婚当時のエピソードを聞いたことがある。

    アルミ箔工場で働く父のサラリーでは、月末の困窮もしばしば。

    そこで、給料日になると必ず、お米とともに、

    みそ・塩・しょうゆなどの基本調味料を買い揃えておいたとか。

     

     

    「こうすれば、お金が足りなくなっても、

    野菜の切れ端でおかずを作って、給料日まで凌げる」

    と言っていたそうである。

    母親は、なかなかのしっかり者だったらしい。

     

     

     

    卵ともやしとえのきだけの中華風炒め

     

    卵 4個(溶く) ※塩、こしょう(ともに分量外)を振っておく

    もやし 1/2袋

    えのきだけ 大1袋(2分割)

     

    オリーブオイル 大さじ2

    鶏ガラスープの素 大さじ1

    オイスターソース 小さじ1

    酒 大さじ2

     

    1. フライパンに多めの油を熱し、溶き卵を入れて大きく混ぜ、半熟程度で取り出す。

     

    2. 残った油で、もやしとえのきだけを炒め、調味料を加えて混ぜ合わせる。

     

    3. 火を落とし、1を戻して混ぜ合わせる。

     

     

     

    昔も今も「物価の優等生」と言われる卵と、

    給料日前に頼もしい、野菜界の激安王2品による料理である。

    直接教わったわけでもなんでもない料理だが、

    形を変えた「おふくろの味」と言えようか。

  • 第101の皿 ほんのりと、ピスタチオのクリームパスタ

    我が住まいは、同じ沿線の2つの駅からほぼ等距離の位置にあり、

    通勤の際には、行きは必ずAを、帰りはAとBを使い分けている。

    Aは急行停車駅で、乗客は多くなるが利便性には替えがたい。

    また、乗り換え駅Cと同じ右側の扉が開くのも、Bにない利点である。

     

     

    東西に商店街が伸び、急行も停車するAに比べると、

    隣り駅のBは非常に地味で、利用者もさほど多くない。

    大ターミナルの始発駅から、Aよりも近くにあるのに、

    「最寄り駅はB」と伝えても、ピンと来ない人も多い。

     

     

    そんなBだから、逃げも隠れもしていないのに、

    街全体が隠れ家のような気配を漂わせている。

    ある平日の夜、駅近くのイタリアンレストランで、

    珍しい素材を使ったパスタに出合った。

     

     

    ピスタチオのクリームパスタ(2人前)

     

    ピスタチオ 殻をむいて100g(+トッピング用に12粒ほど)※ひとにぎり分くらい

    にんにく 小1かけ(刻む)

     

    ショートパスタ 125g(ロングパスタでも)

     

    オリーブオイル 大さじ1

    白ワイン 大さじ4

    コンソメキューブ 1個

    粉チーズ 大さじ1

    白ごまペースト 大さじ1

    ココアパウダー 小さじ2

    パスタのゆで汁 大さじ6

     

    豆乳(もしくは牛乳) 300cc

     

    黒こしょう お好みで

     

     

    1. ピスタチオを乾煎りして、ブレンダーもしくはフードプロセッサーで細かく砕く。

     

    2. オイルを引いたフライパンでにんにくに火を通し、香りが出たら1をあけ、調味料を入れてペースト状になるまで混ぜ合わせる。パスタのゆで汁を加え、トロリとするまでのばしたら豆乳を加えて温める。

     

    3. ゆで上がったパスタを和えてから皿に盛り、トッピング用のピスタチオを載せ、黒こしょうを振り掛ける。

     

     

    パスタソースの素材としては、ピスタチオは初めての味。

    ほんのりとした甘みがクセになる。

    実際のお店の料理はもう少し緑がかっていたから、

    本当は薄皮も除くのが理想かもしれない。

     

     

    パスタ以外の料理も大変おいしかったのだが、

    食事の最初から最後まで、ついに貸切状態だった。

    予約なしで入店したのだが、もし行かなかったら、

    この日の収支はどうなっていたのだろう?と、ほろ苦い気持ちになった。