第6の皿 酢飯の記憶、海鮮丼

その昔、日本中の子どもたちから羨ましがられた少年がいた。
自営業の彼の家は、なぜか毎年のように商売替えをするのだが、
すし屋、ケーキ屋、おもちゃ屋、パン屋、カレー屋など、
「こんな家の子に生まれたかった」と思わせる店ばかり。
その少年の愛称は「ケンちゃん」。
1970年代を中心に放映されたTVドラマシリーズの主人公である。

 

サラリーマン家庭に生まれ、ケンちゃんの境遇に憧れていた私だが、
彼が味わっていた幸せが、突然我が身にも訪れた。
叔母がすし職人のもとに嫁いだので、私は「すし屋の甥っ子」の座を手に入れたのだ。

 

叔父になった人が生まれ育った雑司ヶ谷の近くに構えた店に、
祖母に連れられて横浜からよく通った。
私の祖母は、叔父にとっては「お義母さん」なので、行けば常に超VIP待遇である。
カウンターに座って、好きなネタを好きなだけ、お代を気にせずに注文できるのだ。
叔父は気っぷがよく、子宝に恵まれるまで時間がかかったこともあって、
私をずいぶんかわいがってくれたのだが、
さすがに「カウンターで食べ放題」だったのは、明らかに”嫁の母”の威光だろう。
私の食に関する記憶の中で、最上位を争う幸せな思い出である。

 

今はもう店もなく、叔父も鬼籍に入ってしまったが、
のれんをくぐった時に鼻孔をくすぐる、すし屋独特の酢の香りを時々思い出す。
そして、「すし屋の甥っ子」の座を失った私は、身の丈に合った酢飯の味を楽しむ。
スーパーで半額の値札が貼られた刺身を刻んで、海鮮丼を作るのだ。

 

海鮮丼(1人前)

 

お刺身盛り合わせ 1パック

 

ごはん 1杯分
すし酢 大さじ1
白ごま 大さじ1
大葉 2枚(せん切り)
みょうが 1/2個(せん切り)
海苔 1/4枚(揉む)
しょうゆ 少々
わさび・おろししょうが お好みで

 

  1. ごはんを丼に盛り、みょうが、大葉、すし酢、白ごまを混ぜ合わせ、少し冷ます。
  2. 海苔を散らし、刻んだ刺身を載せ、しょうゆを掛ける。お好みでわさびやしょうがを添える。

 

ごはんは、惣菜コーナーのパックものでも、レンジ加熱で炊けるレトルト品でもよい。

 

みょうが、大葉、白ごま、海苔は、あればとてもおいしくなるが、すべて揃っていなくてもよい。
絶対条件は、お刺身とすし酢だけ。

 

食塩と砂糖、昆布だしがほどよく調合されているすし酢は、
酢飯はもちろんだが、酢を使うさまざまな料理に重宝する。
常備して損のない調味料である。