• 第25の皿 もはやスイーツ!? 甘いだし巻き卵

    料理初心者にとって「これが作れるようになりたい」という、
    上達度の目標となる料理が、いくつかある。
    私にとっては、「だし巻き卵」がそのひとつだった。

     

    料理をするようになるまで、だし巻き卵は、「蕎麦屋や居酒屋で食べるもの」。
    作り方など考えたこともなかったので、
    少しずつ焼きながら「巻いて」作るものと知った時は驚いた。
    料理名に「巻き」と入っているにも関わらず、
    型みたいなものに入れて出来上がるものと勝手に思い込んでいたのだ。

     

    作り方がわかったものの、初心者が手を出してうまくいく料理とは、到底思えない。
    そろそろ挑戦してみようか、と思えるまでに1年、
    専用のエッグパンを購入から、さらに半年かかった。
    ようやく意を決して調理に臨むが、案の定、これがうまく行かない。

     

    まず、火加減がわからない。
    焦げを怖れて弱めに熱して、なかなか固まらず、ちょっと火を強めると必ず焦げる。
    そして、巻き方がわからない。
    本に書いてある「遠くから手前に向けて巻いていく」という感覚が理解できないのだ。
    「これ、手前から遠くの方が巻きやすいんじゃないか」と、
    意味もなくオリジナルな動きを入れたりして、しまいには収拾がつかなくなる。
    結果、「だし”巻けてない”卵」という、
    妙なミドルネームの付いた料理をいくつも作ったものだ。

     

    だが、失敗を10回くらい重ねるうち、だし巻き卵は突然、出来るようになる。
    今となっては、あの頃どうして上手く行かなかったのかわからない。
    それはまるで、自転車の乗り方や、鉄棒の逆上がりのようである。

     

    甘いだし巻き卵(8切れ分)

     

    卵 4個

     

    サラダ油 少々
    だしつゆの素(3倍濃縮タイプ) 小さじ2
    砂糖 大さじ2
    酒 大さじ1
    みりん 小さじ1
    水 大さじ2
    片栗粉 小さじ1

     

    大根おろし 少々

     

    1. ボウルに片栗粉を入れて水で溶き、卵を割り入れて調味料を加え、箸で溶く。
    2. エッグパンにサラダ油を薄く引いて中火に熱し、温度が上がったら弱火に落とし、卵液の4分の1の量を流し入れる。
    3. 半熟程度になり、端が固まってきたら、遠い側の縁を箸でつまんで持ち上げ、少しずつ手前に巻いていく。いちばん手前まで巻き終えたら、遠い側の端へ寄せる。
    4. 空いたスペースに、卵液の4分の1の量を流し入れる。端に寄せた卵の塊を持ち上げて新たな卵液を下にすべらせる。以下、工程3と同様に巻いていく。これをあと2回繰り返す。
    5. 卵を取り出して巻きすの上に載せて包み、両端を輪ゴムで結んでしばらく置き、余熱で火を通す。8等分に切り、お好みで大根おろしを添える。

     

    砂糖を入れる、関東風のだし巻き卵である。
    関西風の甘くないだし巻き卵も、おかずになっておいしいが、
    関東人の私は、やっぱり砂糖入りを作ることが多い。

     

    甘いだし巻き卵を食べると、幸せな気分になれる。
    脳内麻薬と言われる「β-エンドルフィン」が分泌されるからだ。
    だから私は、食卓でも弁当でも、おかずとして食べるのではなく、
    必ず最後まで取っておく。
    食事をシメる甘いおいしさは、自分の中では、もはやスイーツの域である。

     

  • 第24の皿 昼下がりのガスパチョ

    夏の盛り、ゆるやかで長い坂の途中にある店に、汗だくで辿り着く。
    出迎えてくれるのは、ほんのりピンクがかった赤色の冷たいスープ。
    窓辺の席から、さっきまで自分を灼き焦がしていた陽炎を眺めながら、
    木陰のように薄暗い店内で、とびきり清涼なのどごしを味わう至福の時間があった。

     

    この季節が来るといつも思い出すのは、
    以前、ハムライスの回(昨年10月掲載の「第13の皿」)で紹介した、
    「スペイン領の島の名が付いたレストラン」のガスパチョだ。
    灼熱の太陽が照りつける、情熱の国スペイン生まれの冷製スープ。

     

    トマト、きゅうり、パプリカなど、主な食材が出盛るのは夏。
    だから、この時季のスーパーの野菜コーナーは、
    まるでガスパチョ売り場であるかのよう。
    旬ならではのお値打ち価格でズラリと顔を揃えて、
    買い物客に「ひと夏の誘惑」をしてくるから、
    こちらもついついその気に・・・というわけだ。

     

    ガスパチョ(ミニカップ8杯分)

     

    トマト 4個
    ミニトマト 1パック
    パプリカ 3個
    きゅうり 1本
    たまねぎ 1/2個
    にんにく 小1かけ
    食パン 2枚(耳は除く)

     

    オリーブオイル 大さじ4
    冷水 50〜100cc(トマトの水分により調整する)
    レモン果汁 大さじ1
    白ワインビネガー 小さじ1
    パプリカパウダー 大さじ1〜2
    チリパウダー 小さじ1
    塩 少々
    こしょう 少々
    ドライパセリ 少々

     

    1. 野菜をざく切りにして、調味料とともにフードプロセッサーにかける(数回に分けて)。
    2. 1を鍋に移し、味見しながら水を適量加え、塩、こしょうで味を調える。
    3. 冷蔵庫に入れ、完全に冷やす。

     

    かのレストランから教わったわけではない、まったくの自己流レシピだが、
    飲めばあの店の味を懐かしく思い出せるくらいにはなったと思う。
    味を決めるのは、ミニトマトの甘みと、チリパウダーのスパイシーな風味。

     

    加熱せずに味わうスープなので、塩はしっかり利かせたい。
    温かなスープに比べるとやや塩分は多くなるが、
    冷たいスープがおいしい季節は、汗をたっぷりかくから、塩分も不足しがち。
    食べ物の旬とは、本当によく出来ていると思うのである。

     

  • 第23の皿 喫茶店のナポリタン

    お子様ランチの付け合わせに欠かせない、
    オレンジ色もあざやかなスパゲティ・ナポリタン。
    子どもなら誰でも好きなこの味に、大人になってもう一度出会う場所がある。
    そう、喫茶店だ。

     

    このナポリタン、パスタの本場イタリアに存在しないのは、もう有名な話。
    第二次大戦後、横浜・山下公園の真向かいにあるホテルのシェフが考案した説が有力だ。
    麺の芯にわずかな硬さを残すアルデンテが当時の日本人に理解されず、
    半ばまでゆでてから一晩置き、うどんに近い食感をわざわざ作り出したとされる。
    この「ゆで置きの麺を炒め直す」という簡単さが、
    喫茶店や給食、そして家庭にまで広まった理由らしい。

     

    子どもに好かれる一方で、大人にも受け入れられたのは、
    タバスコの存在が大きかったのではないか。
    こちらも、パスタの本場イタリアでは見かけないアメリカ産だ。

     

    くだんのホテルは、長らくGHQに接収されており、それを解かれた際に、
    倉庫には乾麺とケチャップが大量に残されていたとか。
    兵士たちの軽食や夜食として、両者を和えたものが食べられていたためで、
    この在庫を使って、復活したホテルの看板料理として考えられたのが、
    現在のナポリタンの原型とされている。
    つまり、もともとアメリカ流のパスタだから、タバスコとの相性もよかったわけだ。

     

    スパゲティ・ナポリタン(2皿分)

     

    たまねぎ 1/2個(薄切り)
    ピーマン 2個(縦に2分割→横にして薄切り)
    ブラウンマッシュルーム 3個(スライス)
    ソーセージ 3本(真ん中で2分割→縦に4つ切)

     

    パスタ  160g(1.6mm以上の太めのものがよい)

     

    オリーブオイル 大さじ1
    パスタのゆで汁 大さじ4
    ケチャップ 大さじ6(具に大さじ2・麺に大さじ4)
    牛乳 大さじ1
    塩 少々
    白こしょう 少々
    ドライパセリ 少々
    粉チーズ 少々
    タバスコ お好みで

     

    1. フライパンにオリーブオイルを入れ、たまねぎを透き通るまでじっくり炒める。
    2. たまねぎを端に寄せ、ピーマン、ソーセージ、マッシュルームの順に加えて炒める。
    3. 牛乳とケチャップ大さじ2を入れて、具となじむまで炒め、パスタのゆで汁大さじ4を加えてトロリとさせる。
    4. 表示時間通りにゆでたパスタをフライパンに入れ、パスタのみにケチャップ大さじ4と白こしょうを加えて絡め、麺が均等に色づいたら、具と和えて塩で調味する。
    5. 皿に盛り、ドライパセリと粉チーズを振り掛け、お好みでタバスコも掛ける。

    通常のパスタはアルデンテにするために表示時間より短めにゆでるが、
    このパスタだけは時間通りにゆでて、やさしい口当たりに仕上げる。
    さらに、具にパスタのゆで汁を加えることで、麺とのなじみがとてもよくなる。
    また、ゆで上がった麺をフライパンにあけたら、具と和える前に、
    麺のみにケチャップ大さじ4を混ぜ合わせ、味をしっかりと入れよう。

    スパゲティと呼ばれ、味付けもミートソースとの2択だった、昭和時代のパスタ。
    テーブルにタバスコを置くような昔ながらの喫茶店は、
    個人経営のお店が激減して、今や絶滅危惧種であるが、
    よく通っていたあの店を、あの時代を思い出す、懐かしいおいしさである。

     

  • 第22の皿 「カフェ風」とは何か、高菜炒飯

    世の中に、炒飯は2種類ある。
    ひとつは、中華料理店にある正統派の炒飯。
    そしてもうひとつは、「カフェ」で出されるアレンジ炒飯である。
    今月はこの、カフェ風炒飯について研究してみる。

     

    大ざっぱに言うと、カフェ風とは、中華料理店では出てこないタイプの炒飯だ。
    まず、カフェ風炒飯は、メインの具材を中華料理では使わない食材から選ぶ。
    今回は、カフェ風炒飯界ではポピュラーな「高菜」をセレクトする。

     

    次に、ヘルシーであること。
    カルシウム豊富なちりめんじゃこや、すった白ごまなどをたっぷりと入れたい。
    味が軽くなるよう、油はオリーブオイルを使ったりしよう。
    ごはんは、玄米や雑穀を使い、少ない分量でも食べ応えを追求する。
    「少なめの量」というのも重要なポイントで、
    カフェ風炒飯界に大盛りや特盛りといった概念はない。
    それでも、どうしてもボリュームアップを図りたいなら、
    にんじんやれんこんなど細かく刻んだ根菜を加えてみたりして、
    いちいちヘルシーを絡めるとよい。

     

    見た目も重要だ。
    炒飯に不可欠な、ねぎも、長ねぎではなく小ねぎなどを使って緑を濃く。
    さらに、大葉を刻んで散らせば、ビジュアルは中華からかなり遠くなる。
    食器も、なるとの渦のような八卦模様が描かれた、八角形で足付きのチャーハン皿は避ける。
    盛り付けも、きれいなお碗型にしたりはしない。
    平たい皿や深めのボウルやカレー皿にざっくりと盛って、レンゲでなく木製のスプーンを添える。
    これを生成りのランチョンマットなどに置けば、そこはかとなくカフェ臭が漂うはずだ。

     

    カフェ風高菜炒飯(2皿分)

     

    ごはん 1合
    雑穀 大さじ1

     

    高菜漬け 大さじ3程度(刻む)
    ちりめんじゃこ 大さじ2
    にんじん 少々(刻む)
    れんこん 少々(刻む)

     

    小ねぎ 2〜3本(小口切り)
    しめじ or まいたけ 少々(みじん切り)
    大葉 5枚(細切り)
    卵 2個(溶いておく)

     

    オリーブオイル 少々
    白ごま 大さじ3
    酒 大さじ1
    鶏ガラスープの素 小さじ1(酒で溶く)
    黒こしょう 少々
    ごま油 少々(香り付け程度にひと回し)
    白すりごま 少々

     

    1. 刻んだ高菜漬けとにんじん、れんこん、白ごまを少量のオリーブオイルで炒め、香りが出たら小ねぎとちりめんじゃこ、きのこを軽く炒め、フライパンの端に寄せておく。
    2. オリーブオイルを熱して溶き卵を入れ、半熟くらいになったら、ごはんを入れて混ぜ合わせ、1と混ぜ合わせる。
    3. 酒と鶏ガラスープを加え、味を見ながらこしょうを加え、ごま油をごく少量回し入れる。
    4. 皿に盛り、白すりごまと大葉を載せる。

     

    高菜漬けにすでに塩気があるので、塩は入れない。
    食べ進めていくうちに塩分を感じるようになるので、味見で物足りなく感じるくらいでちょうどよい。
    しょうゆも、塩分が強くなりすぎるので入れないこと。

     

    カフェ風炒飯のメイン具材は、たらこや明太子、梅、鮭などでもおいしい。
    これ、気が付けば、おにぎりの具材と同じ。
    ごはんによく合うはずである。

     

  • 第21の皿 種に注意、アボカドの炊き込みごはん

    2つに割ったアボカドから半分露出した種を、
    包丁の刃の根元にカツッと刺して、スッと外す。
    料理番組でよく見られるこのテクニックは、クッキングビギナーの私には、
    たまらなく魅力的に映っていた。
    「切る」という本来の機能以外に包丁を使うのが、とても格好よく見えたのだ。

     

    そこで、ある土曜日の昼下がりに、さっそく試してみた。
    種を刺してみると、思いのほか刃が深く食い込んで、抜けない。
    仕方なく、種を握って抜こうとしたが、アボカドの種は、よくすべる。
    いつもと違う作業を強いられた包丁が反乱を起こしたのか、
    包丁は本来の機能を、我が指に対して遺憾なく発揮してくれたのだ。

     

    救急病院が家の前にあるのは、こんな時に大変便利だ。
    結局、左手親指の側面を、8針縫ってもらうことになった。
    それからというもの、2年間にわたりトラウマが残り、アボカドを買えなかった。
    ようやく克服したが、種はどんなに果肉が崩れようとスプーンで外すことにしている。

     

    包丁の扱い方はいまだに下手だが、
    アボカドを買わなかった2年の間に料理の腕は少しだけ進化したので、
    アボカド解禁とともに、関連メニューがどんどん増えた。
    そんなアボカド料理のひとつ、なんと炊き込みごはんである。

     

    アボカドの炊き込みごはん(4膳分)

     

    アボカド 1個(半分に割って横1cm幅にスライス)
    松の実 大さじ1

     

    乾ししいたけスライス 5g
    だし昆布 5cm角
    水 360cc

     

    米 2合
    しょうゆ 大さじ1

     

    オリーブオイル お好みで

     

    1. 小さめの鍋で米を研ぎ、水360ccとしょうゆを注いでよくかき混ぜてから、乾ししいたけとだし昆布を載せ、1〜2時間浸水させる。
    2. だし昆布を除き、スライスしたアボカドを載せ、松の実を入れてふたをする。
    3. 中火に掛け、沸騰したら弱火にして14分加熱。火を止めて15分蒸らしてから混ぜ合わせ、盛り付ける。

     

    この1品は、とある洋食店の看板メニューとして、
    住んでいる沿線のミニコミ誌に紹介されていたもの。
    記事にあった写真の見た目だけで判断して、勝手な味付けで再現したものだ。
    鍋で炊くからおこげが出来て、それもまたうまかった。

     

    主にパスタやサラダの具として活躍するアボカドだが、
    炊き込みごはんという和のメニューにも合うことがわかり、
    汎用性の高さに驚かされた。
    また、アボカドをごはんと一緒に炊き込んでみようと発想した人にも、脱帽である。