• 第55の皿 ベジファーストできる?焼き肉

    焼き肉店に行かなくなって久しい。
    寄る年波から、肉はもう少量で十分なこともあるが、
    野菜のメニューがほとんどない、という不満がある。
    焼き肉店のベジタブルと言えば、焼き野菜が筆頭だが、
    そのメニューが苦手なのだ。

     

    にんじん、かぼちゃ、しいたけ、なす・・・
    どれもオイルなしで網焼きしたところで、うまくならないものばかり。
    ことにダメなのが、たまねぎだ。
    なかなか火が通らず、たいがい生焼け。
    生焼けのたまねぎの苦味は、たれのうま味を吹き飛ばす破壊力がある。
    これはどういう罰ゲームなのか?
    せっかくの焼き肉ディナーも台無しである。

     

    焼けるのに時間がかかるから、食事で心掛けたい「ベジファースト」が出来ない。
    ベジファーストとは、食事の際に野菜から食べ始めることで、
    同じ内容の食事でも、食後血糖値の上昇が緩やかになるという健康的食習慣なのだが、
    焼き肉店ではなかなかうまく行かない。

     

    そこで、もっぱら家で、自己流の焼き肉を楽しんでいる。
    たれは、焼いたあとに付けるのではなく、
    半日ほど漬け込んだものを焼くのが好みである。
    カルビとロース1人各3枚と、炊きたてのごはん。
    焼き肉の部はこれで十分だ。

     

    あとは、残った漬けだれを活用して、
    キャベツやたまねぎなどの野菜を牛切り落とし肉とともに炒め煮にする。
    肉の旨味をしっかり吸い込んだ野菜は、
    生っぽさが皆無で、ベジファーストには最適である。
    つい最近知ったことだが、肉と野菜をたれで煮込むというこのやり方、
    韓国料理の「プルコギ」に極めて近い調理法らしい。
    というわけで今回も、ひとつの調理で2品ができるレシピである。

     

    焼き肉(とプルコギ)

     

    牛焼き肉用(カルビ/ロースなど) 100g
    牛切り落とし肉 200g

     

    〈漬けだれ〉
    長ねぎ 1本(みじん切り)
    にんにく 1かけ(すりおろす)
    白ごま 大さじ4
    砂糖 大さじ2
    しょうゆ 大さじ5
    ごま油 大さじ1

     

    〈野菜〉
    キャベツ 1/2玉(ざく切り)
    たまねぎ 1玉(繊維と垂直に細切り)
    しめじ 1パック
    もやし 1袋

     

    1. ボウルでたれを作り、肉を入れて揉み込み、ラップをかけて冷蔵庫で半日以上漬け込む。
    2. ざく切りにしたキャベツとたまねぎを、フライパンで1種類ずつ炒め、取り出しておく。
    3. 切り落とし肉を軽く炒めたら、2をフライパンに戻し、しめじともやしを加えてふたをして、野菜がしんなりするまで蒸し煮にして、取り出しておく。
    4. 焼き肉用のカルビやロースを焼き、小皿に取り分け、ごはんを添える。

     

    さて、焼き肉にいちばん合うのは、
    ビールでもなく野菜でもなく、ごはんである。
    せっかくの焼きたて、炊きたてであるからには、
    冷めないうちに最高のマッチングを味わいたい。
    肉に染み込ませた、たれの甘みと、脂身の甘みで、
    ごはんを口に運ぶ箸が止まらない。

     

    ごはんを焼き肉で食べ尽くしてから、ふと気付いた。
    ベジファーストは、どこへ行った?
    結論としては、焼き肉の際に栄養バランスを気遣うこと自体が、間違いだった。

     

  • 第54の皿 ついでに、なすときのこのバターしょうゆパスタ

    料理ビギナーの頃に困ったのは、
    レシピに「なす2本」とか「しいたけ2枚」と書かれている料理だ。
    これが、煮物や炒め物なら、1袋とか1パックを買って
    すべて入れてしまい、その分だけ調味料を増やせばよい。

     

    しかし、パスタの具となると、そうも行かない。
    仕方がないので、1袋とか1パックをすべて入れてしまうか、
    もしくはその食材をすべて省いてしまうか、という手段に出る。
    すると、前者は明らかに分量が多くなるので麺とのバランスが損なわれ、
    後者は当然ながら物足りない仕上がりになってしまう。

     

    そんなビギナーも、調理を重ねて中級に至ると、
    余った食材に応用が効くようになる。
    やがて「このパスタを作るときは、あれとこれも一緒に」が決まり事となる。
    今回は、3品を一度に調理するレシピをご紹介する。

     

    なすときのこのバターしょうゆパスタ
    (なすのしょうが焼き/きのこのバルサミコ酢和え との3品同時調理)

     

    なす 4〜5本(スライス)
    しいたけ 4〜6枚(スライス)
    しめじ 1パック
    えのきだけ 1束
    大葉 5枚(細切り)
    にんにく 2かけ(スライス)

     

    パスタ 200g

     

    オリーブオイル 大さじ2
    バター 大さじ1
    しょうゆ 大さじ2+大さじ1
    おろししょうが 小さじ1/2
    パスタのゆで汁 大さじ6
    白こしょう 少々
    海苔 1枚(細かく刻む)

     

    バルサミコ酢 大さじ2

     

    1. フライパンに油を引いてなすを並べ、弱火でじっくり炒める。
    2. しょうゆ大さじ2とおろししょうがを加えて混ぜ合わせ、パスタ利用分(約2本分)だけ取り出す(なすのしょうが焼き完成)。
    3. 軽く拭いた同じフライパンできのこに火を通し、パスタ利用分のきのこ(約半分)を端に寄せる。それ以外のきのこは別容器に移し、バルサミコ酢で和える(きのこのバルサミコ酢和え完成)。
    4. オリーブオイルを引き、にんにくを炒める。
    5. パスタをゆで、途中でゆで汁をフライパンに入れ、煮詰めておく。
    6. 湯切りしたパスタをフライパンに移し、しょうゆ大さじ1を回し掛け、白こしょうを振って混ぜ合わせる。
    7. 皿に盛り、2を並べ、大葉と刻み海苔、バター1かけを載せる。

     

    週末のランチに欠かせないパスタだが、どんなに手間を掛けても、
    その1食ですべて消費される、刹那的な料理であることが難点。
    だが、この方法だと、パスタを作りながら、惣菜を2品も手に入れることができる。
    この2品は週末の調理遺産として、翌週のおかずやお弁当のタネとして活躍するのだ。

     

  • 第53の皿 あのスープの謎、塩らーめん

    通常のレシピでは、絶対に辿りつけない味がある。
    袋入りインスタントラーメンは、その代表的なものだと思う。
    みそ・塩・しょうゆと、品揃えこそお店のメニューと同じだが、
    両者の味は、およそかけ離れたものである。

     

    料理をするようになって、インスタント食品の利用が激減したが、
    時折、この味が無性に食べたくなる。
    もちろん、生麺仕様など現代風の本格派ではなく、
    かつて「即席ラーメン」と呼ばれていた昔ながらのタイプで、
    それも断然、塩である。

     

    小鍋に湯を沸かし、銀色の小さなアルミ袋を破って、
    麺とともにスープの素を投入する。
    たちまち広がる独特の香りが、猛然と食欲に火を点ける。
    塩味は、お店のスープとの違いが特に激しい。
    ラーメンの中では透明度No.1のはずなのに、
    即席は丼の底が見えないほどだ。

     

    後年、あの黄色みがかったスープの正体を知った。
    まさか・・・だったとは。
    道理で、やみつきになるわけである。
    今回は、あの「らーめん」を手作りしてみた。

     

    塩らーめん

     

    生中華麺 1玉

     

    〈スープ〉
    ごま油 大さじ1/2
    鶏ガラスープの素 小さじ1
    コンソメの素 1/2個(刻む)
    カレー粉 小さじ1/8
    塩 小さじ1/2

     

    季節のお野菜(白菜・しいたけ・にんじんなど) お好みで

    熱湯 400cc
    白こしょう 少々
    白ごま 大さじ1(乾煎りしてから、包丁で刻む)

     

    1. 刻んだ野菜を炒めておく(あるいは、麺とともにゆでてもよい)。
    2. 丼にスープの調味料を入れ、熱湯を注いでおく。
    3. 中華麺を鍋でゆでる。
    4. 湯切りした麺を丼に空け、1を載せて白こしょうとごまを振る。

     

    さる料理漫画に「中毒になるあのスープのヒミツはカレー粉」とあり、
    この情報をヒントに、あの味に迫ってみた。
    結果として、かなり再現出来たのではないだろうか。

     

    もうひとつの味の決め手は、白ごまである。
    透明な小袋に入っていた「切り胡麻」は、
    みそ味にもしょうゆ味にも添えられていなかった独自のもの。
    一般的にラーメンのトッピングとしてあり得ないものだが、
    あの香ばしさも独特の個性を作り出していたと思う。

     

    やっぱり、この味が「一番」である。

     

  • 第52の皿 年越しの鶏だんご鍋

    12月27日(土)
    休暇初日の昼ごはんは、野菜炒めの残りを使って、ソース焼きそばに。
    晩ごはんは、昔通ったオーガニックレストランへ出かけるも、満席。
    少し離れた姉妹店のカフェに行き、野菜系メニューを数皿と
    パスタ、オムライスを、ビールとワインで。

     

    12月28日(日)
    沿線にある、シウマイのお弁当で有名なメーカーの直営店に行き、点心を食べまくる。

     

    12月29日(月)
    作り置きのトマト煮と、冷凍保存の炒め刻み野菜をひき肉と合わせて
    ボロネーゼソースを作り、ペンネと和えてランチに。
    ディナーは、昨日のお店で買ってきた特製シウマイを蒸す。
    出来合いだけでは寂しいので、かに炒飯と中華風コーンスープを調理する。

     

    12月30日(火)
    お昼は、パスタだけゆでて、冷凍保存した作り置きのジェノヴェーゼソースと和えた。
    今宵は、フランス人のマダムがサーブする、クレープリエビストロに。
    シェフのご主人は日本人だが、料理はどれもうまい。
    かきのグラタン、カルパッチョ、ポムフリット(フライドポテト)に、
    ガレット、クレープまで、ロゼワインボトルと追加のグラスワイン白で平らげる。
    帰りに、野菜スイーツで知られるお店に初めて寄り、ケーキを買う。
    深夜、くん製鍋を使った自家製スモークチーズ作り。

     

    12月31日(水)
    昼食は年越しそば。揚げ玉と焼いたねぎを載せて、たぬき南蛮に。
    デザートとして、前夜に買ったケーキを。
    2014年最後の夕食は、鶏だんご鍋。
    シメに中華めんを加えて、年越しそばのダメ押し。
    食後には、晦日に31%割引しているアイス屋さんで買ってきたカップアイス。
    テレビは『吉田類の酒場放浪記年越しスペシャル』。

     

    1月1日(木)
    元旦は、江戸前雑煮と磯辺巻き。
    午後、実家に新年のあいさつに出向くと、牛すきやきが出てきた。
    夜中に帰宅して、通り沿いのパン屋さんで昨日買っておいた調理パンなど。

     

    1月2日(金)
    昼は、なめたけを作って、ツナとともにパスタに和える。
    夜は、実はもう1箱買っておいたシウマイと、中華風コーンスープの残りを。
    食卓に、すでに正月ムードは微塵もない。

     

    1月3日(土)
    八宝菜を仕上げて、かた焼きそばに載せる。
    たくさんの具を刻んで炒める八宝菜は、毎日少しずつ
    調理を進められる長期休暇中にこそ作りたい料理である。
    ここ最近メニューが中華づいていたので、夜はカリフラワーのグラタンを。

     

    1月4日(日)
    前夜のグラタンの付け合わせに用意していたパンで、休暇最後のランチ。
    フィナーレを飾るべく近くのケーキ屋さんで買ってきておいた、
    塩キャラメルケーキとモンブランも食べる。
    晩ごはんは、年末の鶏だんご鍋の残りで済ませる。

     

    以上、瞬く間に終わった休暇中の食生活をまとめてみたが、
    行動は地味なのに、カロリーばかりが著しく派手である。
    いつになく外出が多かったが、用事はすべて食事か買い出し。
    稽古を免除された相撲部屋のちゃんこ番のような年末年始だった。

     

    そんな年越しのメニューの中から、今回紹介のレシピを選んだ。
    ふわふわの食感が楽しめる一品である。

     

    鶏だんご鍋(3〜4人分)

     

    〈鶏だんご〉
    鶏ひき肉 500g
    れんこん 中1/2節くらい
    やまいも 5cm程度
    塩 小さじ1/2
    酒 大さじ4
    水 大さじ4
    しょうゆ 大さじ1
    おろししょうが 小さじ1
    片栗粉 大さじ1
    白ごま 大さじ1

     

    〈スープ〉
    酒 大さじ5
    しょうゆ 大さじ1
    みりん 大さじ2
    水 1500cc
    ごま油 小さじ1

     

    白菜 1/4把(ざく切り)
    しいたけ 6枚(十字に4分割)
    木綿豆腐 1丁(10分割くらいに)
    ぽん酢しょうゆ お好みで

     

    1. 小さく刻んだれんこんと、皮をむいたやまいもをフードプロセッサー高速に掛ける。
    2. フードプロセッサーにひき肉と調味料を加え、1分ほど低速で混ぜ合わせる。
    3. 水と調味料を鍋に入れて沸騰させて火を弱め、2をスプーンで一口大にすくって鍋に入れて火を通し、アクを取り除いたら一旦取り出す。
    4. 白菜の軸に近い部分を入れて、ふたをして中火で5分煮る。
    5. 4に白菜の葉としいたけ、豆腐、3を加えてふたをして、中火で3分→弱火で10分煮る。器に取り分け、ぽん酢しょうゆでいただく。

     

    食べたものをすべて書き出す「レコーディング・ダイエット」なる方法が
    少し前に流行したが、なかなか効果的かもしれない。
    本当はカロリーまで記録する必要があるのだが、
    「この食生活はちょっと・・・」と思うだけでも、意味がある。
    「なかったこと」にはならない、暴飲暴食の厳然たる事実が
    白日のもとにさらされるからである。

     

  • 第51の皿 ひどくメランコリックなカリフラワーのグラタン

    山手線の西側の下の方にある、とだけ言っておこう。
    だから下町ではないのだが、さりとて山の手とも呼び難く、
    ビジネス街とはおよそ言えないが住宅街とも異なる、
    やや中途半端なイメージのある駅の近くに、そのお店はあった。

     

    山手線の駅から徒歩3分であるにも関わらず、
    初めての訪問時では、見つけるのに10分は費やした。
    お店は逃げも隠れもしていないのに、濃厚な隠れ家感が漂っていた。

     

    夜間だけ営業しているお店の中は、暗かった。
    開店直後だったのだが、店じまいしたのかと思える薄暗さ。
    注文を取りに来た店主の印象が残っていないほどの明るさである。
    ちなみに、お店にいたのは店主ただ一人。

     

    やや大きめの音で流れていたのは、フランスのテレビ番組の録画音声。
    厨房内にあるテレビを店主が見ているだけだから、内容の詳細はわからない。
    司会者のジョークに観客が笑い、ゲストが登場するたびに拍手、
    時に場面転換のための短い音楽、という音声が繰り返されており、
    どうやらヨーロッパで夜に放送されるタイプのバラエティショーらしい。
    フランスだと思ったのは、そのお店がリヨン料理を出すからである。

     

    料理は、おいしかった。
    前菜に出てきた生ハムの塩気の強さは本場さながらで、
    ワインと合わせてこその味。
    そう言えばこの店は、酒の飲めない人間は入店お断りという
    ドレスコードならぬ「アルコールコード」がある店だったのだ。

     

    店の雰囲気と相まって、どう考えてもここが●●●(駅名)とは思えない。
    ワインが重なるにつれ、不思議な感覚が増幅していった。
    そんな中で、特に印象に残ったのが「カリフラワーのグラタン」である。

     

    カリフラワーのグラタン(2皿分)

     

    カリフラワー 大1/2株(小なら1株・小房に分ける)
    たまねぎ 1/2玉(みじん切り)
    ホワイトマッシュルーム 1パック(スライス)
    白いしめじ 1パック
    にんにく 1かけ(みじん切り)

     

    〈ベシャメルソース〉
    バター 大さじ3
    薄力粉 大さじ5
    牛乳 400cc

     

    熱湯 200cc
    コンソメの素 1個(刻む)

     

    ピザ用チーズ 100g
    パン粉 大さじ4
    粉チーズ 大さじ2
    ドライパセリ 少々

     

    1. 小房に分けたカリフラワーを皿に入れ、ふんわりラップをかけてレンジ500Wで5分加熱する。
    2. フライパンにバターを熱し、たまねぎをじっくり炒め、香りが出るまでにんにくを炒める。しんなりしたらきのこ類を炒め、取り出してフードプロセッサーに入れ、高速でペースト状にする。
    3. フライパンで1を少し焼き色が付くまで炒め、取り出しておく。
    4. 2をフライパンにあける。3をフードプロセッサーに入れて低速で粗く刻み、フライパンに移して混ぜ合わせ、皿2つに取り分け、平らにならしておく。
    5. 牛乳をレンジで温めておく。
    6. フライパンにバターと薄力粉を入れ、とろみが出るまで弱火で炒める。温めておいた牛乳を少しずつ加えて弱火で練り上げる。コンソメの素を溶いた熱湯を注ぎ、フライパンにあけてソースをのばし、2皿に分けて入れる。
    7. ピザ用チーズ、粉チーズ、パン粉、ドライパセリを2皿に分けて入れ、200°Cにしたオーブンで12分焼く。

     

    例によって中身は完全に推測だが、まあまあ満足の味に仕上がった。
    具がすべて白っぽかったから、白色系のきのこで
    うま味を強めていたのは間違いのないところ。
    寒い冬にぴったりの、あたたかでやさしい味である。

     

    お店での魔法の時間は、中盤過ぎに他の客が来たところで、瞬時に解けた。
    日本語が聞こえてきた途端に異国情緒は消え去り、
    ここが●●●(駅名)だったことが思い出されたからである。