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第65の皿 最高の環境で、白菜仔獅子頭のスープ
寒波襲来で冷え込みがピークに達した日、エアコンが動かなくなった。
暖房が最も必要となる時季に起きる、我が家の恒例行事である。
メーカーのサービスセンターに来てもらうと、
室外機の高圧ヒューズが何らかの原因で飛んだ(ショートした)とのこと。
4種類くらいの部品交換が必要で、結構な金額が掛かるらしい。今の住まいに暮らし始めて、ちょうど10年。
エアコンもその頃の製造品で、メーカーの部品保有義務は生産終了から9年間。
今後は部品切れになり次第、たとえ修理が可能でも、即買い換えになるという。聞けば、エアコンの寿命はだいたい15年くらいなのだとか。
ウチの機械は故障が多いので、そこまで持つとはとても思えない。
たとえ修理出来ても、来年また壊れるかもしれないものに、大金を掛けるのか?
これは新品に買い換える機会なのかもと、別の日に見積もりに来てもらった。ところが、このエアコンはビルトインで、
通常タイプの壁面取り付けと違い、天井埋め込み型。
業者さんに見てもらったら、天井に入れてからパネルで塞ぐ作りになっていて、
内装に一部手を加えないと取り外しも取り付けもできないという。おまけに、1台の室外機で2部屋を賄うマルチエアコン。
交換となると、室内外のすべての機械をまとめて新調しなくてはならないらしい。
2台のエアコンと室外機に加えて、内装工事まで。
かくして、軽いめまいを覚える見積もりが上がって来た。修理費が温泉旅行(豪遊レベル)ができるくらいだとすると、
交換費に至ってはヨーロッパ旅行クラスである(いずれも家族2人分の価格)。
生活必需品とレジャーの金額を比べるのはナンセンスだとわかってはいるが、
エアコンが壊れなければこれだけの旅行ができたと考えると、悔しさもひとしおだ。結局、内装に手を入れるのはなるべく先送りにしたいので、
現在のエアコンを修理して延命措置を図る道を選択した。
できるだけ長生きしてくれることを祈るのみである。
今回は、復旧までの寒さを癒やしてくれたスープを紹介する。白菜仔獅子頭のスープ(10皿分)
白菜 1/4株(ざく切り)
春雨 1袋(熱湯で戻す)〈肉団子=20個分〉
豚ひき肉 300g
長ねぎ 1/2本(みじん切り)
卵 1個
片栗粉 大さじ1
白ごま 大さじ2
おろししょうが 小さじ1/2
塩 小さじ1/2
しょうゆ 小さじ
1/2オイスターソース 小さじ1薄力粉 大さじ1
ごま油 大さじ1〈スープ〉
水 1200cc
塩 小さじ2
鶏ガラスープの素 大さじ2
酒 大さじ4
白こしょう 少々- ごま油を引いたフライパンで白菜を炒め、水と調味料を張った鍋に入れ、ふたをして1時間煮込む。
- ボウルに肉団子の材料を入れ、よくこねる。一口大に丸め、薄力粉を振り掛けてまぶす。
- ごま油を引いたフライパンに入れ、肉団子の表面がカリッとするまで焼く。
- 3を1の鍋に加え、ふたをして30分ほど煮込む。
- 春雨を加え、少し温める。お椀に白菜、春雨、肉団子2個とスープをよそう。
当コラムの第17の皿として紹介した中華風煮物「白菜獅子頭」を
スープ仕立てにしたレシピである。
本家は、大きな肉団子を獅子の頭に見立てた料理だが、
肉団子を小さくしたので、仔獅子の頭ということにした。スープの真価が最高に発揮されるのは、寒い場所。
エアコンの修理が済むまでの我が家は、
どんなスープでもそのおいしさが極限まで引き出される、
とてもミラクルな空間だった。 -
第64の皿 年越しのカレー南蛮そば
12月29日(火)
休暇初日は、外食日に設定した。
昼ごはんは、香港飲茶の店に行き、茶を飲まずに点心と飲酒。
晩ごはんは、昨年も行ったクレープリエ・ビストロに。
通算3回目の来店だが、どういうわけか、行くのはいつも年末。
それゆえ、年末になると行きたくなるお店になってしまった。
来店を翌日にするか迷ったが、年内の夜の営業はこの日までと知り、
正解だったとひと安心。
かきのグラタンとガレット、赤ワインで、おなかいっぱい。
小柄なフランスマダムの日本語トークに、今年も癒される。
商店街も人通りはめっきり少なく、いよいよ2015年も大詰めである。12月30日(水)
昼は、最近よくやるパルミジャーノリゾットの、残りのチーズを使ってパスタに。
夜は、生ハム・ベーコン・ロースハムを使った、おなじみのハムライス(第13の皿参照)。
アメ横でパプリカパウダーを新たに仕入れておいたので、ぜいたくに使った。12月31日(木)
昼は、年越しそばで、今年はカレー南蛮に。
大みそかの夜は、ここ最近の定番で、年越し鍋をやる。
昨年は鶏だんご鍋(第52の皿参照)だったが、
今年はおでん(第29の皿参照)にした。
テレビは相変わらず『吉田類の酒場放浪記年越しスペシャル』。
地上波放送をスルーして、BS放送を見る比率は年々高まる一方である。1月1日(金)
元旦は、例年通りに江戸前雑煮と磯辺巻き。
近年、もちは年に一度、この日にしか食べなくなった。
午後は例年通り、実家に新年のあいさつに出向く。
ここで、おせち料理をいただいたのが、早くも本年最後のお正月料理である。
夜中に帰宅して、昨晩に作っておいたサンドウィッチを食べる。
食卓は、完全に松が明けた状態だ。1月2日(土)
昼ごはんは、焼き飯(第59の皿参照)。
晩ごはんは、大みそかのおでんの残りを片付ける。1月3日(日)
昼ごはんは、昨年4月に冷凍しておいたポモドーロソースでパスタ。
麺をゆでるだけで、手間要らずである。
食後に、「今週のスープ」として豚汁を多めに作り、休み明けに備える。
連れ合いが翌日から仕事なので、炊き上がったごはんをお弁当箱にも詰める。
ついでに、自分の翌日の昼ごはんも、支度するのが面倒なので弁当にする。
晩ごはんは、すでに完全に平常運転モードだ。1月4日(月)
連れ合いが体調不良でお休みをいただくことになったので、
昼ごはんは2人とも家の中でお弁当という
「遠足が中止になった時のお昼」状態になってしまった。以上、年末年始の食卓を今年も紹介してみたが、
土日が2回ずつあった昨年より少ない分、外出も摂取カロリーも控えめで、
昨年以上に地味な日々だった。今年は、年越しそばとお雑煮の汁をまとめて作れないかという実験をしてみた。
カレー南蛮そば(2人前)(+江戸前雑煮のつゆのベース)
〈そば+雑煮のつゆのベース〉そば:雑煮=6:4
水 1000cc
だし昆布 1枚
かつおだし+いりこだしの素 各1パック〈そばのつゆ〉
めんつゆの素(3倍希釈用) 大さじ2
しょうゆ・みりん・酒・砂糖 各大さじ1〈具材〉
そば(乾麺) 200g
鶏もも肉 150g(小口切り)
長ねぎ 1本(4cm長さに刻んでおく)
三つ葉 2〜3本(4cm長さに刻んでおく)〈A〉
オリーブオイル 大さじ2
薄力粉 大さじ4
カレー粉 大さじ2- フライパンで鶏ももと長ねぎをじっくり炒め、取り出しておく。
- 片手鍋Aに〈そば+雑煮のつゆ〉の水とだしを合わせて煮立たせ、2/5量を片手鍋Bに移す(雑煮用のつゆのベース。調味は後日)。昆布を取り出し、調味料と炒めた鶏肉150g分、長ねぎを入れて、少し煮る。
- フライパンでAを炒め、粉状になったら2に入れ、とろ火で10分煮る。その間に、そばを規定時間よりもやや短めにゆで、ざるにあけて水で締め、熱湯を掛ける。
- つゆを、ゆで上がったそばを入れた丼に注ぎ、具材を載せ、三つ葉をトッピングする。
昨年1月の当コラムでは、あまりにハイカロリーな飲食記録を
「レコーディングダイエットのようだ」と書いたが、
今年は体重も増えずに、穏やかに過ごすことができた。
どうやら、料理に手を掛けるほどカロリー過多になる傾向にあるらしい。
今年の目標は「料理はほどほどに」で行くことにする。料理ブログなのに。 -
第63の皿 軽やかな自家製ピーナツバター
外食したら、ある料理がとてもおいしかった。
シェフにそう伝えると「実はピーナツバターを使っている」と教えてくれた。
この食材を使うイメージがない料理なので驚いたが、
早速マネしてみたくなるのが人情というものである。しかし我が家は、ピーナツバターを常備していない。
買ってくればよいのだが、必要とする量は、ほんの少しだけ。
残ったものをパンなどですべて平らげるのはたやすいが、
ピーナツバターは何せ100gで640キロカロリー。
そんな危険なものに、家の敷居をまたがせるわけに行かないのだ。少量だけ入手できないだろうかと、グーグル先生に聞いてみたら
「手作りすればいいじゃない」と返ってきた。
そんなに簡単に作れるものとは思っていなかったが、
さまざまな情報を組み合わせて少量用にレシピをアレンジしたら、
拍子抜けするほど簡単に出来てしまった。ピーナツバター
ピーナツ 2つかみ
バター 25g前後(ホットケーキに載っているバター×3のイメージ)
メープルシロップ 小さじ2(なければ砂糖でも)- ピーナツをフードプロセッサー(高速)に掛け、すり鉢でさらに細かくする(きな粉くらいに)。
- 室温に戻しておいたバターとメープルシロップを1と混ぜ合わせ、よく練る。
長い人生の中で、ピーナツバターを手作りする日が来ようとは夢にも思わなかったが、
家にある材料だけで、ある日突然とびきりのピーナツバターが出来てしまった。たまの贅沢として買っておいた、千葉半立種の素煎り落花生を使えたのがよかった。
スーパーで売られているピーナツバターで、国産の落花生を使ったものなど、おそらくあるまい。作りたてのピーナツバターは、口当たりがとても軽やか。
味がくどくないのは、材料が極めてシンプルだからだろう。
余計な添加物が一切入っていない自家製ピーナツバター、ぜひお試しを。ところで、そのピーナツバターを使って作った料理は、
残念ながら外で食べたものとは少々隔たりがあった。
まだまだ改良の余地があるので、紹介はまたの機会としたい。 -
第62の皿 ランタンはないが、かぼちゃのポタージュ
ハロウィンが、年々イベントとしての存在感を増しているようだ。
マスコミが過剰に煽っている感もなくはないが、
若い世代を中心に、積極的に乗っかってやろうという人たちが増えてきて、
季節の風物詩として無視できない存在になりつつある。普及してきた大きな要因は、ひとえに10月31日という時期にあろう。
お正月・バレンタイン・お花見・夏のレジャー・クリスマス。
街が活気づく行事について、年間を通して眺めてみると、
秋がまったくの空き家状態だったことが見逃せない。同じ舶来の行事であるクリスマスに肩を並べるのは容易ではないが、
日本版ハロウィンとも言える「節分」は超えたのではないか。
少なくとも、街の飾り付けなどイベントとしての高揚感は、
豆と恵方巻きだけの節分を軽く上回っている気がする。
残念ながら、豆を持った人と鬼のお面をかぶった人が、
2月3日の街にあふれている印象は、まったくない。いずれにせよ、広告業界に身を置く人間としては、
世の中が何かで盛り上がるのは、悪いことではない。
私生活では、これまでもこの先もまったく縁のなさそうなイベントであるが、
せめて、かぼちゃ料理でも作ってみよう。かぼちゃのポタージュ
かぼちゃ 1/4切れ
たまねぎ 1個(みじん切り)オリーブオイル 大さじ1
コンソメの素 2個
牛乳 300cc
水 800cc
白こしょう 少々- かぼちゃをラップごとレンジで加熱し、冷めたら皮を取り除いておく。
- フライパンにオリーブオイルを熱し、たまねぎをじっくり炒める。
- 1と2を何回かに分けてフードプロセッサーに入れ、形がなくなるまで回し続ける。
- 水、コンソメの素を鍋に入れ、弱火で10分煮る。牛乳を加えて温め、白こしょうで味を調える。
これまで、かぼちゃと言えばもっぱら「冬至に食べるもの」だったが、
甘みを増して食べごろになるのは、晩秋のこの時期から。
本格的な寒さの到来を前にして、
食卓だけでもハロウィンに乗っかってみるのもいいだろう。 -
第61の皿 苦い記憶と、さんまそば
テーブルがほぼ埋まっている割には、
店内が異様に静かだった時点で気づくべきだったかもしれない。
数年前に入った、古都の由緒あるお寺の門前の蕎麦屋の話である。
古刹名刹が居並ぶこの街の中でも、このお寺の敷地は群を抜いて広い。
だから、参拝に疲れて、皆の口数が少なくなっていると思っていたのだ。それにしてもこの静けさは、何だろう?
ほどなくして、好きではない銘柄の瓶ビールとともに、
小袋に入ったままの柿ピーが無造作にテーブルに置かれ、
胸中の不安は確信に変わった。
「この店、ハズレだ・・・!」ビールは、案の定、ぬるかった。
広い境内を歩き回り、喉を潤したかったから、
いつもなら絶対に頼まない銘柄でも、お冷や代わりにと頼んだのに。
高いお金を払って、冷水にも劣るものを持って来られた。この時点で、やがて運ばれてくる「そば」への期待値はゼロだったが、
実際の味は、その覚悟をはるかに超えていた。
明らかに手打ちでないその麺には、コシというものがまったく存在せず、
目の前に置かれた時点ですでに、のびていた。
対照的に、サービスで添えられた「かやくご飯」には、歯応えがあった。
固めに炊かれたのではなく、水分に乏しい古米もしくは古々米を炊き、
時間が経過して生まれた固さと思われるから最悪である。周囲を見渡すと、人々は皆うつむき加減で、
何かに耐えるように黙々と箸を動かしていた。
一刻も早くこの店を出たいのであろう。後悔の念に、胸が押しつぶされそうになる。
たとえどの店を選んでも、この店以下ということはないだろう。
ファストフードだったら、この店のお代で3回は行ける。
市販の乾麺でも・・・レトルトでも・・・。
死んだ子の年を数えるかのような思いが脳裏を渦巻く。悪いのは明らかに店なのだが、それを言っても始まらない。
結局は自己責任で、この店に入ってしまった自分を恨むだけである。
今回のレシピは、この店より確実にうまいと断言できる、このおそばを。さんまそば(2人前)
さんま 2尾(三枚におろしたもの)
〈さんまの蒲焼き用〉
しょうゆ 小さじ2
みりん 小さじ2
酒 小さじ2
砂糖もしくは水飴 小さじ2そば(乾麺) 200g
〈そばつゆ用〉
だしつゆの素 大さじ2
しょうゆ 大さじ1
みりん 大さじ1
酒 大さじ1
だし昆布 5cm角
水 800cc粉山椒 お好みで
- おろしたさんまに片栗粉をまぶして、油を引いたフライパンで両面を焼く。
- 油を拭き取り、蒲焼き用の調味料を注ぎ、両面を煮る(1分ずつくらい)。
- 鍋に水とだし昆布を入れて加熱し、沸騰直前になったら昆布を取り出す。
- そばを「かけ」の規定時間通りにゆで、冷水で締めた後、熱湯を掛けて温め、丼に盛る。
- 丼に3を注いで2を載せて、粉山椒を振り掛ける。
ほろ苦いさんまの味が、
うまい具合にそばに絡む、にしんそばの
リメイク版である。
ゆかいならざる味の記憶も、このさんまそばで少しは
うさ晴らしができたと思う。
じんわりとおいしい、秋の味覚だ。クリごはん、今回は「繰り言」のクリだった。