• 第80の皿 いつか、青い海で。からすみのパスタ

    「ブルーオーシャン」というマーケティング用語がある。
    「付加価値の高い新商品やサービスを、低コストで実現するビジネスモデル」
    のことで、同業他社が存在しない青く広い海を独り占めして、
    ゆうゆうと泳ぐさまから例えられた。

     

    青い海を独占するためには「新しい」だけではダメで、
    「低コストで」が重要ポイント。
    同じ価値のものをもっと安く提供するライバルが現れれば、
    先行者の利益はたちまち失われてしまうからだ。
    なので、簡単にはマネできない低価格システムを構築していなければならない。

     

    そんなブルーオーシャンの一例が、誰も考えつかなかった
    「高級立ち食い」というコンセプトを打ち出した「俺の」シリーズだ。
    フレンチやイタリアンなど、一流シェフによるハイクラスな味を
    リーズナブルに提供することで、都心の飲食街に行列風景を作り出した。

     

    さて今回は「高級食材をリーズナブルに」という共通点から、
    海に生きる魚の恩恵を受ける、この料理を。

     

    からすみのパスタ(2人前)

     

    からすみスライス 12g程度

     

    パスタ  200g
    オリーブオイル 大さじ2
    にんにく 1かけ(みじん切り)
    白こしょう 少々

     

    パスタのゆで汁 大さじ10

     

    1. にんにくをオリーブオイルとともに弱火でじっくり炒める。
    2. パスタのゆで汁を加え、乳化させる。
    3. ゆでたパスタを絡め、白こしょう、みじん切りのからすみを和える。
    4. 器に盛り、からすみスライス1切れずつを載せる。

     

    ボラの卵から作られる「からすみ」は本来高級食材だが、
    ぺらぺらのスライスなら12枚1000円程度と、
    庶民にも手を出せるプライスである。
    パスタ2人前ならスライス6切れ使い、
    2切れははそのままで、残りはみじん切りに。
    本当にささやかな量なのだが、それなりに満足の行くおいしさだ。

     

    ボラは世界中の海で泳いでいるが、普遍的な品やサービスを、
    苛烈な値引き競争で斬り合う市場を「レッドオーシャン」という。
    まさに「血の海」なのだが、世にある製造業・サービス業のほとんどは、
    赤く染まった旧態依然のビジネスモデルの海で、闘いを続けている。

     

    いつの日か、誰もいない青い海をゆうゆう泳ぐことができるよう、
    日頃からアンテナの感度は高めておきたいものである。

     

  • 第79の皿 背中合わせのベーコンとそら豆のパスタ

    メニューに困った際に、冷蔵庫にあって欲しい食材が、ベーコンである。
    じっくり炒めると、とてもよい味が出て、
    野菜メインの料理でも満足度が上がるので、
    スープに、炒めものにと、非常に重宝する。

     

    語源由来辞典(gogen-allguide.com)によると、ベーコンの語源は、
    ゲルマン祖語で「背」「背中」を意味するbakkon。
    ここから、塩漬けにした豚の背やバラ肉の燻製をbahhoと呼び、
    やがてフランス語でも英語でもbaconと言うようになったとか。

     

    たっぷりの旨味は、炭水化物との相性がよく、
    パスタを作る時にも、たびたびご登場願っている。
    ベーコンの持つ塩分と脂で、味が決まりやすいのも、
    お座敷が多い理由のひとつである。

     

    ベーコンとそら豆のクリームパスタ(2人前)

     

    ベーコン 50g(ブロック)(0.8mm角に)
    そら豆 12個程度(3〜4房くらい・さやから取り出して包丁目を入れておく)
    しめじ 1パック
    にんにく 1かけ(みじん切り)

     

    パスタ 200g

     

    オリーブオイル 大さじ2
    白ワイン 大さじ4
    豆乳(成分無調整) 300cc
    コンソメの素 1個
    粉チーズ 大さじ1
    パスタのゆで汁 大さじ8

     

    白こしょう 少々

     

    1. そら豆を弱火で2分ゆで、ざるに揚げて冷まし、皮をむいておく。
    2. フライパンでベーコンをじっくり炒め、オイルを足してにんにく、しめじを炒める。
    3. 2に豆乳と調味料を加え、液体がとろりとソース状になるまで煮詰める。1を加え、ソースと和える。
    4. パスタをゆでる。ゆで上がる少し前に、フライパンにゆで汁を加え、乳化させる。
    5. フライパンでソースと和え、白こしょうを振る。

     

     

    今は、春まっただ中。
    うららかな陽射しが注がれて、植物が芽吹き、伸びてゆく。
    皿の上でも、そら豆の旬ならではの緑があざやかで、
    生命力あふれるシーズンの訪れである。

     

    季節が変わる少し前に、小さな出逢いと別れがあった。
    皆の背中を見ながら大きく育つよう願ったが、
    遠ざかる背中を見送ることになった。
    早春の日々のさまざまな思いが、いまだに脳裏をよぎっている。

     

  • 第78の皿 今だけの菜の花のおひたし

    期間限定と言えば、何と言っても野菜である。
    「旬」という究極のタイマーのもと、
    さまざまな種類が季節ごとに店先を彩っている。

     

    出始めは当然、高値。
    出荷が増えるとともに値が下がり、底値になったらおいしさもピーク。
    やがて、売り場内での存在感が少しずつ薄れていき、
    「そういえば最近見ないな」と気づいた頃に、
    その年の旬が終了しているのである。

     

    今しか食べられない、いつか必ず売り場から消えるものだから、
    その野菜が出てくると、もう買わずにはいられない。
    今の季節なら、菜の花やグリンピース、カリフラワーなどだろうか。
    必然的に、それらばかり食べる日々を過ごしている。

     

    菜の花のおひたし

     

    菜の花 1把
    白だし 大さじ2
    かつおぶし 少々
    すり白ごま 少々

     

    1. 菜の花をゆがいて冷水に取り、水気を絞って3等分くらいに切る。
    2. ボウルにあけ、白だしとかつおぶし、すり白ごまで和える。

     

    さて、CopyPeでは、お題制を採用して3回目を迎えたが、
    実はテストケースとして昨年8月からすでに、
    皆が同じ裏テーマに基いて執筆していた
    (お題は8月から順に「夏休み」「解散」「カリスマ」「趣味」「旗」)。

     

    今月は「期間限定」というお題だったが、
    「期間限定と言えば」という書き出しで始めるのは、当ブログくらいのものだろう。
    他のメンバーのように、今書きたい文章の中に、
    テーマのエッセンスをさりげなく忍ばせる芸当が、なかなかできない。

     

    そのときどきの「旬」の話題に、
    さりげなくテーマを潜り込ませるのが、当面の目標である。

     

  • 第77の皿 汚名を雪ぐ、みぞれ鍋

    大根は、不憫だ。
    「大根足」「大根役者」と、
    何かに付けて悪口のタネにされている。

     

    もともとの「大根足」は、褒め言葉。
    大根のように太いのではなく、大根のように白いという、
    素肌の美しさを褒める言葉だったのだ。

     

    「大根役者」は、悪口ではあるが、
    “当たらない”(=売れない)はどのような調理を行っても
    決して食あたりすることのないところから来ている。
    大根そのもののよい機能を語っているのに、
    悪口として利用されるのは理不尽である。

     

    下手な役者が「大根」と呼ばれるようになったのは、
    「当たらない」の他にも諸説あって、
    「大根おろし=舞台からおろされる」
    「馬の脚の役ばかり=足が大根を連想させる」
    「予備の役者=ダイコウ(代行?)より」
    「白い=演技のしろうと」
    「下手な役者は白粉を多用することから」
    「場が白けるから」
    などなど、大根のあらゆる特徴が、
    これでもかとばかりに、こきおろしの材料となっている。
    ある意味、あらゆる料理の素材に活用される大根ならではと言えようか。

     

    みぞれ鍋

     

    大根おろし 1/2本分
    豚肉(しゃぶしゃぶ用) 200g
    絹ごし豆腐 2丁
    水菜 1束
    しめじ 1パック

     

    ぽん酢しょうゆ お好みで

     

    1. 鍋に水(分量外)を張り、具材に火を通す。
    2. 大根おろしを加える。
    3. ぽん酢しょうゆでいただく。

     

    冬の寒い夜にうれしい、大根おろしを雪に見立てた鍋ものである。
    大根役者だの大根足だの、悪しざまに例えられがちな大根を使った、
    ビタミンCたっぷり、ぬくもりいっぱいの鍋。
    雪のように白い大根が、汚名を雪ぐ(すすぐ)一品と言えよう。

     

  • 第76の皿 鍵のある暮らしとコーンマヨトースト

    鍵のある生活に、あこがれていた。

     

    大学進学と同時に実家を出て、最初に住んだのは、
    あばら屋に共同玄関、狭い廊下に並んだ4部屋のうちのひとつ。
    追われる身でもないのに「潜伏」と呼ぶのがふさわしい、
    絵に描いたような「四畳半下宿」である。

     

    廊下との仕切りは、ドアではなくガラス戸だったから、
    外出時は、戸の上部に取り付けたステンレスの「掛け金」に、
    3ケタの数字を合わせて開ける「ダイヤル錠」を掛けるだけ。

     

    昔ながらの集合住宅の郵便受けによく見かける組み合わせの鍵なのだが、
    つまりは、手紙やはがきのプライバシーが守れる程度の備えで、
    人間が不在の部屋を守っていたわけである。

     

    もっとも、盗られるほどの金目の物は一切なく、
    わざわざ鍵を掛けるのが恥ずかしくなるような生活レベル。
    もし、間違って入ってしまった泥棒がいたら、
    気の毒がって何か置いて帰ってくれそうな部屋だった。

     

    今回は、まだ何も持っていなかったあの頃によく作った、
    精一杯の贅沢メニューを。

     

    コーンマヨトースト

     

    食パン(6枚切り) 1枚

     

    コーン(ホール缶) 適量
    マヨネーズ 大さじ2
    黒こしょう 少々

     

    1. マヨネーズを塗った食パンにコーンを載せ、トーストする。
    2. 黒こしょうを振り掛ける。

     

    出世魚ではないが、鍵もまた、出世していくものらしい。

     

    四畳半下宿を出て、初めて得た、アパートの鍵。
    就職を機に移り住んだ、ワンルーム賃貸マンションの鍵。
    新しい家族と同時に手に入れた、小さなファミリーマンションの鍵。
    現在持っているのは、容易に複製できないディンプルキー。

     

    少しずつ形状が進化していく鍵は、ささやかなステップアップの証でもある。
    鍵があるということ。
    それは、守りたい何かがあるということ。
    改めてこの幸せをかみしめる、年明けである。