• 第100の皿 カウンターの葛藤、貝割れ菜のおひたし

    たまには、皿が回っていないお寿司屋さんに行きたい。
    皿の代わりに会計時に目が回るというオチがあったりもするのだが、
    季節のものをおまかせで握ってもらう時間は、
    あらゆるジャンルの外食の中でも屈指の贅沢であろう。

     

    おまかせとなると、握りたてをいただけるカウンターがベストだが、
    あれこれと話し掛けられるのが苦手なので、どうにも落ち着かない。
    幸い、職人さんはそういう客を見極める目があるらしく、
    過剰に構うこともなく、適度な距離感で接してくれることが多いのではあるが。

     

    いっそのこと「サビ抜きで」のお願いのように、
    「トーク抜きで」と最初に申告するシステムがあればと思う。
    そんな要請に当たり前のように
    「はい、トーク抜き一丁!」と応じてくれる店の出現を夢見ている。

     

    貝割れ菜のおひたし

     

    貝割れ菜 4パック以上

    白だし 大さじ1
    水 100cc

     

    1. ミニフライパンで、水と調味料をひと煮立ちさせる。

    2. 火を止めて貝割れ菜を入れ、さっと煮て、冷ます。

     

     

    紹介したレシピは、あるお寿司屋さんの「突き出し」を、
    自己流で再構築したものである。
    ものすごく安価な食材で、料亭の一品のような、家庭料理らしからぬ味に仕上がる。
    コラム100皿到達を記念した、とっておきのメニューである。

  • 第99の皿 ほどよい脂で、中華風豚の角煮

    「月(にくづき)」に「旨い」と書いて、「脂(あぶら)」。
    肉のおいしさを、文字から保証しているのが素晴らしいではないか。
    豚ならバラ肉、牛ならカルビ、鶏なら、もも肉。
    脂をメインで味わう料理なら、豚の角煮がいちばんであろう。

     

    豚の脂は、オレイン酸やステアリン酸が豊富で、
    悪玉コレステロールを減らし善玉コレステロールを増やすなど、
    なかなかの栄養を含んでいるらしい。
    とは言え、カロリーも高いので、さすがに摂り過ぎは避けたいもの。

     

    そこで、余分な脂を落として、ほどよい量を食べよう、
    というのが今回の調理のテーマ。
    よく見るレシピは、下ゆでして脂を抜くものだが、
    脂が溶け出した汁を排水管に流すことに、どうも抵抗がある。

     

    このため、下ゆでせずに焼くことで、脂を落とすことにしている。
    フライパンで表面を焼き固めると、透明な脂が染み出す。
    この脂をペーパーに吸わせてゴミとして捨てれば、
    排水管と、その先にある海も汚さずに済むわけだ。

     

    中華風豚の角煮

     

    豚バラ肉 500〜700g(適当な大きさにカット)

     

    水 500cc
    鶏ガラスープの素 大さじ2
    八角 2個
    しょうゆ 大さじ5
    甜麺醤 大さじ1
    オイスターソース 大さじ1
    酒 大さじ5
    黒糖or三温糖 大さじ4
    はちみつ 大さじ1
    おろししょうが 小さじ1
    五香粉 少々

     

    1. 豚肉をフライパン(油は不要)に入れ、脂身の面から6面すべてに焼き色を付ける。

    2. 水と調味料を入れた圧力鍋に1を入れ、「豚の角煮」の調理法に従ってセットする。

    3. 圧が抜けたら内なべを取り出して冷まし、保存容器に汁ごと移し、冷蔵庫に入れる。

     

     

    冷蔵庫に入れた角煮は、汁の表面に脂が浮いて固まるので、
    簡単に取り除くことができる。
    2段階の脂落としで、肉と脂のバランスがちょうどよくなる。
    角煮丼はもちろん、汁も活用できる角煮ラーメンもおすすめだ。

  • 第98の皿 健康のためなら、夏のお吸い物

    「健康のためなら死んでもいい!」
    というフレーズを叫んでいたのは、昔の所ジョージさんだったが、
    矛盾するほど過剰に求めてしまいがちなのが、健康である。
    若い頃はさほど思ってはいなかったが、やはり健康は大切だ。

     

    スポーツ紙を毎日愛読するほどのスポーツマンな私だが、
    汗をかくのは大嫌いなインドア派。
    さりとて、サプリメントを毎日きちっと飲み続ける根気も持ち合わせておらず、
    健康についての備えは、非常に心もとない。

     

    このため、食生活だけでなんとか健康を維持できないかを、
    常日頃から考えてやまない。
    この思考こそが不健康な気もするが、
    他に頼るものがないのだから仕方がない。

     

    どうせなら、好きなものを食べて健康になるのがベスト。
    しかも簡単に作れて、暑い夏にぴったりの冷たいものなら、なおうれしい。
    夏に冷たいものという発想もまた不健康だが、この際それは目をつぶる。
    栄養価の高いものを、しかも何品目も同時に摂れれば、理想的である。

     

    夏のお吸い物

     

    生めかぶ 2パック
    生もずく 2パック
    生わかめ 1つかみ(刻む)
    おくら 20本(小口切り)
    なめこ 1〜2袋
    えのきだけ 2〜3袋(軸を落とし、乾煎りして水分を飛ばす=ぬめりが出るまで炒める)
    水 1800cc
    白だし 大さじ8
    酒 大さじ2
    みりん 大さじ2

     

    1. 鍋に水と調味料、具材を加えて、あくをすくいながら温める。

    2. 冷めたら冷蔵庫へ入れる。数時間後に飲む際は、器に注いですぐに冷蔵庫へ入れる。

     

    ぬめり食材だけを集めて、冷製お吸い物を作ってみた。
    ローカロリー・ローコレステロールで、食物繊維が豊富。
    血液の凝固を防ぎ、生活習慣病予防、脳細胞の活性化、
    免疫力の向上、デトックス効果などなど。

     

    フコダインやペクチン、セルロースといった、
    多くの素材から溢れ出る「ぬめり」成分は、
    栄養も清涼感も満点。
    夏のみならず、1年中でも取りたい健康スープである。


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  • 第97の皿 令和の梅ジャム

    2つの時代をまたいだ10連休が、国を挙げて施行された。
    このスーパーゴールデンウイークで痛感したのは自身が
    「まとまった時間が出来ても、特に何もしないタイプ」
    だったと改めて気付かされたことである。

     

    10日間で、外出は隣町への散歩2回のみ。
    見事なまでに「通常の土日×5回分」として淡々と使い切った。
    決して遠くない老後が思いやられる暮らしぶりに、
    生活のメリハリを形作っている「労働」のありがたさを思う10日間だった。

     

    そんな休暇の中、最低限の行動目標がたったひとつあった。
    それは「以前に漬けた梅酒のびんを1つ空けること」。
    5月と言えば、翌月には梅酒の仕込み時期。
    平常では面倒な作業を成し遂げられる、絶好のチャンスだったのだ。

     

    具体的には。梅酒のびんを空けたあとで残る梅の実を、ジャムに加工する作業である。
    10連休にはうってつけ、というか、普段の週末ではとても手に負えない。
    ここでやらずして何時やるか、というなかなかの苦行だ。
    連休中でも「明日やろう」と先延ばし続け、連休終わりに近付いた日にようやく着手した。

     

     

    梅ジャム

     

    梅の実 1kg分

    レモン果汁 大さじ1
    砂糖 100g

     

    1. 梅の実とひたひたの水を鍋で煮て〈沸騰後、中火10分〉、冷ましてから種を取る。

    2. レモン果汁と砂糖を加え中火〜とろ火に落として10分、とろとろになるまで煮込む。

    3. 火を止めて自然冷却して容器に移す。

     

     

    新元号「令和」の出典は、「万葉集」の「梅花の歌 三十二首」の序文とか。
    ジャムにした梅は、7年前の平成24年に仕込んだ梅酒の梅。
    工程1で出た煮汁は、飲めば十分酔っぱらえる「梅酒茶」となる。
    令(よ)き梅の香りで、和(やわら)ぎを楽しもう。

  • 第96の皿 平成の終わりに、鶏つくね

    何を隠そう、社会人デビューが平成のスタートと重なっている。
    入社試験を受けたときはまだ昭和だったのだが、
    春を待つうちに、元号が切り替わったのだ。
    数えなくても勤続年数がわかるのは、すごく便利だった。

     

    TVなどで繰り返される平成史は、大きな災害や事件、
    ときおり快挙など、実にさまざまな出来事に彩られている。
    一方、自分史においては、さしたる起伏もなく歳月を重ねてきた。
    まさに「平らかに成る」身の上で、とてもありがたく思っている。

     

    新しい元号は「令和」と発表された。
    節目の年が、また元年になるのもありがたい。
    引き続きキャリアを積み上げ、一歩ずつ前へ進もう。
    今回は、残り少ない平成を惜しんで、この料理を。

     

    鶏つくね

     

    〈つくね〉
    鶏ひき肉 500gくらい(もも2:むね1がよい)
    やまいも 5cm程度(すりおろす)
    卵白 卵2個分
    塩 小さじ1/2
    酒 大さじ4
    水 大さじ4
    しょうゆ 大さじ1
    おろししょうが 小さじ1
    片栗粉 大さじ1
    白ごま 大さじ1

     

    〈たれ〉
    しょうゆ 大さじ2
    みりん 大さじ1
    酒 大さじ1
    砂糖 大さじ2

    卵黄 お好みで
    七味唐辛子 お好みで
    粉山椒 お好みで

     

     1. 〈つくね〉の材料をボウルで混ぜ合わせ、冷蔵庫で1時間寝かせる。

     2. スプーン大の1をフライパンで両面をじっくり焼き、取り出す。

     3. 〈たれ〉の調味料を火に掛け、1を戻して照りが出るまで煮からめる。

     

     

    平成の終わりにちなんで、
    「平(たい)らに成る」食べ物を選んでみた。
    肉だねがゆるめだから、混ぜるのも手を使わずにスプーンでOK。
    これを成形せずに焼くので、自然と平らな形になるのだ。

     

    人生2回目の元号変わりで、三つの時代を生きるわけだが、
    「明治・大正・昭和」を生き抜いた人の重厚感に比べると、
    「昭和・平成・令和」の三またぎは、何とも軽やか。
    貫禄も身に付くことなく、へらへらと世を渡って行けそうだ。