第28の皿 初春の口福、ほたての磯辺巻き

「幸福感」を大切にしている。
幸福感とは、あくまで個人的な定義だが、根拠のない幸せのことで、
「なんかハッピーって感じがしなくもない?」くらいのイメージだ。

 

ほんとうの幸福を手に入れるのは大変だが、幸福感は、簡単に手に入る。
幸福は、お金持ちになったとか家族が増えたとかの具体的な理由が必要なのに対し、
幸福感は「自分が幸福だと思ったら、それは幸福である」と言うものだからである。

 

常に幸福感を味わうため、私は、
「幸せのスイッチを入れる自分ルール」を設定している。
それは「道を歩いていて黒猫に横切られたら、それは吉兆である」というものだ。

 

通常、不吉と思われている事柄であるが、不吉であるという根拠はない。
だからと言って福を招く根拠もないのだが、
そこは自分だけのローカルルールなのでご容赦いただきたい。

 

このルール、今では
「茶色でも白でも三毛でも横切ったのが猫なら1ポイント。黒猫ならポイント2倍」という、
何のポイントなのか訳のわからないものに進化している。
そのうち「ポイント5倍DAY」や
「2000匹以上の横断で100ポイント進呈」など、
駅前スーパーのポイントカード並みに発展しそうな勢いである。

 

このように、常に幸福感に満ちあふれ充実した日々を過ごしているわけだが、
そこは「気の持ちよう」「気のせい」「単なる思いこみ」という実体のないものなので、
たまには根拠のある幸福も味わっておかないと、精神衛生上よろしくない。
手っ取り早くリアルに幸福になれるのは、やっぱり、おいしいものを食べた時である。

 

そこで、意を決して、ご近所のお鮨屋さんに行くことにした。
目の前を皿が回ったりしないカウンターで、
店主がひとつひとつ丁寧に仕事を施した一品料理を出してくれる。
今回は、そこで出合った料理のうちのひとつである。

 

ほたての磯辺巻き

 

ほたて貝柱刺身 5〜10mm厚×4枚
海苔 10×5cm幅×4枚
だしつゆの素(3倍濃縮タイプ) 小さじ1/2

 

  1. だしつゆの素を小皿に注ぎ、ほたて刺身を片面5分ずつ漬けておく。
  2. 小フライパンで海苔を乾煎りする。
  3. 火を止めて海苔を取り出し、1を並べて片面10秒ずつ余熱で炙り、海苔で挟む。

 

「しょうゆ味のものを挟めば、もちじゃなくても磯辺巻き」という発想の転換が楽しく、
意表を突いただけでない確かなおいしさに感銘を受けた。
まさしく「お正月のお鮨屋さんのオードブル」である。
このメニューとて実際には細かい仕事がなされているはずだが、
唯一家庭料理レベルでも真似できそうなものだったので、作り方を考えてみた。

 

食べてみると、プロに及ばないのは当然だが、家庭料理なりの幸福は味わえる。
これぞ「口福」。
目の前を黒猫が3往復したくらいの価値がある。