• あつい日々

    「暑い、と言ったら罰金です」、というゲームがあったら
    今年はどれだけ課金されるんでしょうか。
    まあ、しかし海の向こうのロンドンでは連日熱い戦いが繰り広げられていて…、
    毎朝目が覚めるとメダルがいくつか増えているという幸せな日々。
    しかも猛暑の日本とは違って、下手すると20℃ぐらい気温が低い。
    選手はもちろん観戦する方も涼しそう、快適そうでうらやましい。
    現地入りしている各局のアナウンサーやキャスター、タレントたちが
    普段よりニコニコしているように見えるのはメダルのせいだけでもないのでは。

     

    しかし夏休みだからこそ寝坊なんて気にせずに、
    オリンピック観戦を楽しめる子どもたち。
    競技内容に一喜一憂するのはもちろん、
    時差とか、国旗とか、人種とか、文化とか、
    そういう体幹というか、心幹(そんな言葉はないですが)に影響する
    何かを学んでほしいと思います。

     

    なんて真面目なことを考えたのも、「夏休み、オリンピック、夜更かし」の
    勝手に三題噺で自分の子どもの頃のことを思い出したから。
    今でこそBSにケーブルに、ブルーレイにDVD、
    テレビ画面でいつでもいくらでも動画を観ることができます。
    海外からの中継技術も発達して、そうそう電波がとぎれるようなこともありません。
    いっこく堂の衛星放送の腹話術「あれ、音が、遅れて、聴こえて、くるよ」は、
    そのクオリティは素晴らしいですが、
    今の子どもたちにはリアリティはあまりないかもしれません。

     

    1978年(昭和53年、といった方がしっくりくるわけですが)に、
    日本テレビが「24時間テレビ 愛は地球を救う」を放送すると発表した時に、
    自分が味わった高揚感は、今はもう理解してもらえないかもしれません。
    地方に住む子どもには夢のような出来事で、
    本当にその日が待ち遠しくて仕方なかった。
    夏休みの終わり頃の土曜から日曜にかけて朝までテレビを放送している、
    しかも当時にしてはエポックな出来事なので、
    遅くまで起きて見ていても叱られない、だなんて。
    もちろん結局力尽きて寝てしまうわけですが、
    11チャンネル(当時、自分が住んでいた町の日本テレビ系列のチャンネル)に
    釘づけで、
    手塚治虫の長編アニメや
    多分それがはじめてのテレビでの演奏だったゴダイゴのことをはっきり覚えています。
    そもそもの主旨だった募金とかボランティアとか、
    チャリティ精神にも感動していた純粋な心。
    オリンピックのスポーツマンシップと比べるのは強引かもしれませんが、
    目撃者である子どもの側からすると、
    夏休みの成長体験として、何かしら共通するものはあると思います。
    夜を越えて、夏を越えて、大人になっていく感じ。

     

    バルセロナオリンピックでわずか14歳の岩崎恭子が金メダルを獲ったのだって
    1992年、今から20年!も前のこと。
    「今まで生きてきた中で一番幸せです」、
    こんなセリフを言ってのけた中学生のことをなぜか今でも思い出すことがあります。
    ロンドンでも名セリフは生まれるでしょうか。
    「康介さんを手ぶらで帰すわけにはいかない」、でしょうか。
    2012年夏、原発や節電のことも頭をよぎりますが、
    24時間テレビからもバルセロナからも、遠く年を重ねてきた大人には
    気温ばかり高くなっていく夏の中で、昔のことばかりがぶ厚く鮮明です。

  • やばい日々

    甥がいます。
    「大きくなったらなにになるの?」「しまうまー」と、
    元気にこたえていた彼も、
    色黒で手足だけひょろ長い小学六年生になってしまいました。
    わけのわからない替え歌を歌いながらトイレに入ったり、
    ザリガニを獲ろうとしてドブ川に落ちたり、
    白い紙を見つけると延々と出口のない自作迷路を書き続けたり
    することもなくなりました。
    わたくしの大好物の小学校低学年男子ではなくなりました。
    成長ではありますが、少し残念です。
    低学年男子萌えとしてはその代替案として、
    五代目市川團子8歳を追いかけることにしました。

     

    先日生まれて初めて自腹で、1万5千円も払って
    新橋演舞場に「六月大歌舞伎」を観に行きました。
    何十年か後に
    「あたしはねぇ、猿翁と猿之助と中車の三代同時襲名と團子の初舞台を観たんだよ。
    そりゃあもう華やかだったねぇ。それに比べると新しい○○○はまだまだだねぇ」
    と同じ昔話をいつまでもし続ける厄介なばあさんになるために。
    とうとう歌舞伎にまで手を出してしまいました。
    香川照之こと九代目市川中車の梨園入りを契機として、
    わたくしも勝手に澤瀉屋(おもだかや)びいきを襲名させていただきます。
    澤瀉屋というのは歌舞伎役者の屋号のひとつで、
    舞台のここぞという場面で大向こうからかかる「おもだかやっ!」などの掛け声には
    観ている観客の方もわくわくするものです。
    興味がある方は「グループ魂・中村屋」で検索してみてください。
    あまり参考にはならないかもしれませんが。

     

    もう抱っこもチューもできなくなった甥っ子に冗談ですり寄ろうとしたら、
    「ムリー」と返されて、
    彼が思春期のとば口に立ったことを悟りました。
    ヤバくね?とか、ウケんだけど、とか言い出すのも時間の問題です。
    いいも悪いも、美味しいも不味いも、おもしろいもつまらないも、
    あらゆる感情を「やばい」と「うける」と「むり」のほぼ3語だけで表現できる若者たち。
    子どもの頃に読んだ本に
    “未来の人間は言葉を必要としなくなって、
    テレパシーみたいな手段でコミュニケーションをとる”と書いてあったのを覚えています。
    もう彼らは未来人なのか。
    それは真の意味での「やばい」ことかもしれません。

     

    「はい」、「いいえ」、「ありがとう」、「すみません」の4語だけで
    亜弓さんと丁々発止の対決をやり遂げた
    北島マヤ@ガラスの仮面とはわけが違います。
    長いエチュードの末に、「どんな曲が好き?」と聞かれて、
    レコード(これも時代です)を探すパントマイムをして
    「はい!」と差し出したマヤの、今でいう、どや顔をよく覚えています。
    連載開始から35年以上たってもまだ完結しない大河少女漫画。
    紅天女はどちらが演じるのでしょうか。
    見届けられるんでしょうか。
    團子はいつか猿之助を襲名するんでしょうか。
    30年後だとしたら見届けられないかもしれません。

     

    ところでこの2012年7月7日にアドブレーンは創立50周年。なんと半世紀です。
    ガラスの仮面よりもずっと先輩です。
    おめでとうございます。
    ありがとうございます。
    やばいですね。ちょーウケますね。

  • 空の日々

    旧聞ではありますが。見ましたか?金環日食。
    前日になってその気になって、日食グラスなるものを探してみたものの、
    手に入るはずもなく、裸眼でチラ見して、その日は一日中目をチカチカさせていました。
    天体ショーそのものにも感心はしましたが、
    マンションの11階の踊り場から聞こえた、近所の子どもたちの歓声や
    振り返った時に隣のマンションの窓に張り付いていた家族のパジャマ姿なんかに、
    朝からおもしろいもの見たなという気持ちになりました。
    普段あまり感じたことのない一体感。
    ただでさえ慌ただしい朝、しかも月曜だったから尚更です。
    どちらかというと、その風景の方を写真におさめたかった。

     

    そして明けて翌日はあいにくの雨の中、東京スカイツリーオープン。
    現在に至るまで、時間指定の入場制限や関連施設での大行列が続いているようで、
    会社がある新橋からはそんなに遠くもないですが、
    ふらっと行ってすんなり中に入れるのはまだまだ先でしょうか。
    高いところ、好きなんですけどね。人ごみは好きじゃありません。

     

    上の方の話題ばかりが続くのは、
    うつむいてスマホばっかりいじってないで、
    ゆっくり空でも見上げてみろ、という天の配剤かもしれません。
    近頃本当に首や肩のこりがひどく、
    スマホ通(スマホのエキスパート)でなく、スマホ痛に悩まされています。
    ただの四十肩か五十肩でしょうけど。
    どなたかいい整体を知っていたら教えてください。

     

    それならば、と思って空ばかり見上げていると、
    今度は一天にわかにかき曇り、あっという間に雨霰…、というのが最近の都内の空模様。
    この間は竜巻注意報なんてものまで発令されていました。
    長いこと東京にいますが、そんな警報は初めて聞いたような気がします。
    いずれにせよ、突然の雷やにわか雨、大気が不安定な状態、
    というのにもなんとなく慣れてしまいました。

     

    スカイツリーみたいなでっかいもんつくってしまって、
    空の上の方から、誰かが怒ってるんじゃないですかね。
    ここ最近の、荒ぶる自然現象の数々は。
    旧約聖書の「バベルの塔」のエピソードみたいに。
    「同じ言語を持つ人類が神に挑戦しようと天にそびえる高い塔を建てたため、
    怒りに触れ、人々は違う言語を与えられ、世界中にバラバラに飛ばされた」。
    ネットの普及で、ことばをはじめとするいろんなボーダーがなくなっているわけだし。
    何が起こーってもへーんじゃなーい♪と、結成20周年を迎えたミスチルも歌っています。

     

    なんてなことを妄想しながら、空と手元と、
    ついでに右ひじと左ひじを交互に見ていたら
    あっという間に今年も半分、6月です。
    「ウは宇宙船のウ」、ブラッドベリも亡くなりました。
    残り半分、上の空のまま過ぎていきそうです。空っぽの心で。

  • 共有の日々

    二つ違いの妹がいます。
    今はさすがに二人とも大人になったので、
    それなりにコミュニケーションもとりますが、
    まあ、そんなに仲のいい姉妹ではありませんでした。
    洋服の貸し借りをしたり、いっしょにどこかに出かけたりした記憶はほとんどありません。
    同じクラスにいても友だちにはならなかったでしょう。
    そんな興味も趣味も違う関係性でした。

     

    確か妹が小学校低学年の時です。
    ふたりいっしょの子ども部屋には学習机がひとつ。
    親戚の誰かのお下がりだったような気もします。
    うちが貧しかったわけでもなく、当時はみんなそんなもんでした。
    引き出しは段ごとに持ち主が分かれていて、
    それぞれ大事な物、今思えばガラクタですが、を入れて、
    まあそれなりに譲り合って使っていました。

     

    ある夜、妹が寝静まった頃、おなかが空いた姉は、
    こっそりと妹の引き出しを開けました。
    そこにお菓子が隠してあったことを知っていたからです。
    忘れもしません、昼間買ってもらった粒状のチョコレートです。
    ポリポリと食べていたら、気配を感じたのか、
    なぜか妹が目を覚まし、親の敵のように糾弾されました。
    それから何十年、「夜中に姉ちゃんが私のコーヒービートを盗んで食べていた」、
    と今でもたまにこの話をされます。
    それが、その後仲良し姉妹になれなかった要因のひとつかもしれません。

     

    と、以上、前置きが長くなりましたが、
    これが本来の?「共有」です。
    “わたしたち姉妹は机を共有していた”、わけです。

     

    カーシェアリングとかシェアハウスとか、
    いつしか、共有は「シェア」に変わりました。
    車の貸し借りはともかく、
    ルームシェアなんて、極端な場合は見知らぬ人といっしょに暮らすことにもなるわけで、
    そんなハイリスクはどんなリターンがあるにしても、
    昭和生まれには受け入れがたい。

     

    プライベートもオフィシャルも、何でもかんでもみんなで分かち合いましょう、
    情報だって共有しましょう。
    みんなで「いいね!」ボタン押さなきゃねー、という流れ。
    そんなにオープンじゃなくても、とも思いますが。
    知ったり知られたりしたいことなんてそんなにあるんですかね。
    そのうち二股交際とかも、
    「違います、彼氏(または彼女)をシェアしてるんですぅ」、
    とわけのわからないイントネーションで肯定されてしまうんでしょうか。
    そんな時代になれば塩谷瞬もあそこまで糾弾されずに済んだかもしれません。
    きっと早すぎたんでしょう、お気の毒に。

     

    やたらとCCの多いメールを見ているうちにそんなことを思いました。
    少し疲れているんでしょうか。
    こんな時には甘いもの、
    夜中になったらトナリの人の机のお菓子を食べてしまいましょうか。
    果たして妹の時のように、あるいは塩谷瞬のように、糾弾されてしまうんでしょうか。

  • 春の日々

    制服の胸のボタンを下級生たちにねだられたことがありますか?
    夜の校舎窓ガラス壊してまわったことがありますか?
    瞳を閉じれば誰かがまぶたの裏にいることでどれほどか強くなれましたか?
    春です、卒業です。
    絶対的エース前田敦子とも、
    会社を去っていく何名かともお別れです。
    「センチメントの季節」です。

     

    いつからか夏にブーツを履き、冬にノースリーブを着ることができるほど
    季節感がなくなりました。
    風邪のマスク姿と花粉症のマスク姿が混在し、
    ウールのコートとナイロンのコートがすれ違うこの時期、
    桜の花だけが確実に「春」という季節を告げています。

     

    昨年はそれどころじゃなかったお花見も、
    今年はあちこちで開催される、または既に開催されたようです。
    もちろん自分もですが、人はなぜ花見をしなければ気が済まないのでしょう。
    桜を観ながら、集まって飲んだり食べたりすることは
    確実に日本人のDNAに組み込まれていて、
    東京なら上野の山で、隅田川のほとりで、新宿御苑で、井の頭公園で、
    なんなら花はそっちのけで繰り返されるどんちゃん騒ぎ。
    しかしまだまだ花冷えで、夕方にはお尻の下に敷いたシートから冷気がしみ込み、
    結局は寒くて座っていられず河岸を変えることになるのもお約束。
    なかには桜とともに日本を北上していくつわものもいるほどです。

     

    今年東京で一番にぎわっているお花見スポットは、
    スカイツリーを望める場所かもしれません。
    卒業があれば、出会いがあるように、新名所「東京スカイツリー」は5月22日開業。
    すぐに高い所に登りたがるDNAも組み込まれているのか、
    開業から当分は日時指定の予約のみ受け付けられているとか。

     

    確かに一度は登ってみたい世界一の電波塔、
    都内を東に向かっているとどこかの地点から急に目に飛び込んでくるあの景観は
    偉業であり、異形でもあります。
    見るたびに、あの高さの何倍もある巨人がいて、
    ツリーのてっぺんの細くなってるところをつかんで引っ張ったら
    本州ごとぐるんとまるまって地球からはがれてしまうんじゃないかと妄想します。
    「進撃の巨人」の読み過ぎかもしれません。
    もっともあの巨人は身長15メートルぐらいらしいですが。

     

    さんざん報道されたせいか、語呂合わせのせいか、
    「スカイツリーの高さは634メートル」という情報も組み込まれました。
    ムサシ(武蔵)の国から来ているそうですが、
    1192つくろう鎌倉幕府、以来の、一生忘れない語呂合わせです。
    しかし中学や高校で語呂合わせで年号や元素記号を覚えて何年経ったことか、
    いや正直、卒業してから何十周年です。
    制服のボタンをねだったことも、
    窓ガラスを壊したことも、
    金八先生に警察を呼ばれたこともありませんでしたが。

     

    卒業、入学、入社など、新しいスタートを切るみなさんおめでとうございます。
    同僚も10名も増えました。
    今年も無事に4月です。