• ビューティーなメモリー 旅の回

    毎回宝塚の話でもいいくらいなんだけど、
    それはおいといて。

     

    みなさんは英語しゃべれますかー?
    ここで「Yes」と即答できるのはもはや水嶋ヒロだけか!?
    わたしももちろん中学校から大学まで英語は必須だったけど
    座学で学んだからといって現地でペラペラってわけにはいかない。
    そこがねえ。日本の英語教育のアレなとこですよねえ。ねえー。

     

    海外旅行に行ったとき困るのは言葉だー!!
    もうーホントはるかしんぱーい♥♥♥

     

    さて、成田で出国審査を受けるとハッキリ言ってもう国外。
    まだ英語の必要はないけど、
    なんとなく免税店のお姉さんたちは日本人ぽくない。
    はい免税。はい購入。
    免税店のタバコ売場ってなんかよくないですか?
    いつもこじんまりとコンビニや自販機におさまっている
    タバコたちが、ズラッと何カートンも陳列されてる姿が好きだー。
    そのあと動く歩道で芸能人&芸能リポーターごっこをやってみたり。
    え、しないの!?ひと旅一度はするよね!?

     

    日本を出発して、さあ機内です。
    外国の飛行機会社っていいないいなー。
    これから向かおうとする国の客室乗務員さんたちは、
    その国の空気をまとっているから。
    ああほんとうに出発するんだなと思ってわくわくする。
    でも、楽しみでしかたないのと同じくらい心臓の位置のおさまりが悪いっていうか、
    自分がちいさなあの心臓にきゅるきゅると縮んでしまった気がして
    大きなからだを持て余してしまうような、落ち着かない気分。

     

    機内での英語はそんなに重要でもない。
    客室乗務員さんたちはお客様に対してとても親切だし、
    そこでの会話もある程度限定されてるから。
    ほしい飲み物、ビーフなのかフィッシュなのかとか。
    寒いからブランケットがほしいとか、テレビが映らないとか。
    英語はそれくらいでいい。
    なんならジャスチャーでいい。
    わたしは機内で、渡航先の国の言葉で使えるものがあれば
    あいさつとかね、使ってみる。
    がんばって「フルーツぜんぶください」とたとえばドイツ語で言ってみる。
    そうするとうんうんと深くうなずいて、
    宮崎駿の『天空の城ラピュタ』にでてくる
    盗賊の女頭領みたいな風貌のベテラン客室乗務員が、
    フルーツをぜんぶ乗せてエレガントにサーブしてくれる。
    「ダンケシェーン」とまたドイツ語で。彼女も「ビッテシェーン」とかえしてくれる。
    そういうやりとりはすごく楽しい。

     

     

     

    でも、現地に着いてからがほんとうの勝負。
    いつも、常に、100%なにかが起きる。それはどこか。

     

    ホテルだ。

     

    わたしはよく「3人一部屋」を利用する。
    そこで部屋に着いてまず見るのは、ちゃんとベッドが3つあるか。
    たいていひとつはエキストラベッド。

     

    でもよかった。ちゃんとある。
    次は、タオルなんだけど・・・・・・あるある。セーフ。

     

    スリッパがーーーーーーーーーー!!!
    3人でスリッパが2つしかない。
    日本と違ってスリッパが常備なホテルはむしろ珍しいけど、
    そこはアメリカンスタイルのホテルだったので用意されていた。
    こういう事態で両親は、真夜中の海のように静かに横たわってしまっているため
    わたしがフロントへ電話することになる。

     

    ―(現地の言葉)こちらフロントです
    ―(英語)アー、アー、わたしの部屋は333です
    ―(英語)はい
    ―(英語)アー、わたしたちは3人です。でも、スピッパが2つです
    ―(英語)すみません、もう一度?
    ―(英語)2つだけのスピッパーしかないんです
    ―(ちょっと沈黙)・・・
    ―(英語)アー、なのでお願いします。333です
    ―(英語)オーケイ!バイ!

     

    10分後、ハウスキーパーの一人が、部屋のベルを鳴らした。
    職業的な笑顔で、1枚のタオルを持って立っていた。

     

    ・・・・・・スリッパ通じてねえ!!

     

    ってことで、結局「これがほしいんです」と現物を見せて
    「あーはいはい」となったわけで、二度手間になってしまったけど
    彼はスリッパを持ってきてくれました。ありがとう・・・。

     

    こういうエピソードはほかにもあって、
    まあね、3人とかで泊まると足りなくなるわけで。
    なにって、トイレットペーパーがね。
    たとえひと巻きでも、まだ残っていると補充してくれないから
    ちょっとね、足りなくなっちゃう。

     

    そこである夜、わたしはフロントへ電話したわけです。
    ここは臨場感をだすため英語でお楽しみください。

     

    ―RRRR RRRR RR プツ
    ―Hello, ah・・・・・・my room is 222.
    ―Yes.
    ―Ah, and I have no toilet paper.
    ―・・・・・・I’m a guest.
    ―Ah, so, my room has no toile・・・
    ―I’m a guest.

     

    訳すまでもないけどこういうことですね。

     

    ―アー、こんにちは。わたしの部屋は222です
    ―はあ
    ―アー、えー、トイレットペーパーがないんです
    ―・・・・・・わたしは客だ
    ―えーとだから、部屋にトイレットペ・・・
    ―わたしは客だ

     

    つまりわたしは他のお客さんの部屋に
    「トイレットペーパーない!」っていきなり電話したと。
    たしかにフロントの人にしては愛想がないっていうか
    眠たげな声だなーとか思ってたら、あんたそれお客さんだよっていう。
    電話の向こうの男性も呆れてました。

     

    そのあと平に平謝りしたら、うんざりした声で「Good night」って言ってくれました。
    英語がド下手でトイレの紙がない!ない!と言ってくる失礼なヤーパンにも
    おやすみって言ってくれるなんてジェントルメーン!

     

    海外へ行くとわかるけど、向こうの人たちはユーモアにあふれてる。
    よく洋画で、主人公が生きるか死ぬかみたいなシリアスなシーンでも
    余裕ぶっこいて冗談言い合ったりするけど、あれ多分、本当にあると思う。

     

    たとえば。
    わたしがオランダでとても×100お世話になったホテルがある。
    その時わたしは緊急の事態に見舞われて気が動転していて、
    異国の地でどうしようもなく不安で泣きそうだったのだけど
    そこで、宿泊客でもないぜんぜん関係ないツーリストのわたしたちに
    このホテルは善意で大きな部屋を一時的に貸してくれて、
    あたたかいスープや飲み物をだしてくれたのだ。
    数時間後そこを離れる時、わたしが本当に助かったと言ってお金を払おうとすると、
    対応してくれたマネージャーは首をふってこう言った。

     

    「ぼくが日本に旅行して困ったことがあったら、その時は君に助けてもらうよ」

     

    ねえ!?聞いた!?みんな聞いた!?このジェントルメン発言!!
    っていうか聞き取れたわたしすごくない!?
    じゃなくて、どんだけジェントルメンなんだよーって!!このやろー!!
    グッドウィルハンティング旅立ちかよー!!泣かせるわーい!!
    連絡先とか教えたわけじゃないから、彼は本当に、
    わたしに気を遣わせないためだけに言ってくれたんですよ。
    いやーすごい。マジでキュン死に5秒前ですよ。号泣ですよ。
    救われたよねーこの一言!!
    さりげないユーモアと、おちゃめな優しさバンザーイ!!

     

    2年後くらいに、またオランダに行った時
    お礼を言おうとそのホテルを探したんだけど、結局見つからなかった。
    今もオランダのどこかにある、森のヴィラみたいなホテルです。

     

    だ~か~ら~みんなもゆけ~~~~~~~~!!!!!
    海外~へ~~~~~~~~~!!!!!

  • ビューティーなメモリー 宝塚の回

    だいぶいまさらですが、あけましておめでとうございます。
    わたしは大みそか、村上ショージをみてテンションあがりました。
    なんでだろ。
    トイレの神様ちゃんと聞いた人いる?
    あゆってウェディングドレス姿だったの?
    あと、巨大な鶴は・・・?
    衣装対決はやっぱり、さそり座のあの人がいないとね!

     

    年も変わったし新しいことはじめたい!
    そう思うあなたは〇ーキャンのCMに洗脳されぎみでしょう。

     

    さて、ビューティー的2011年ことはじめはなんと・・・「宝塚」!
    かなりビューティー!ザッツ・ビューティー!
    1月3日に、初!タカラヅカ体験してきたので
    興奮さめやらぬ調子でそれをレポートしちゃうYO!

     

    宝塚と言えば!
    ものすごい濃い化粧をして(つけまつげとか二重)
    男装の麗人がいて(肩パッド的なものを入れてありえない直角の肩)
    ラブシーンもあって(この世のものとは思えないあま~いっていうかクサ~いセリフ)
    なんだこれは!?っていうのが最初の感想。
    でも、とにかく一度観たら忘れられないインパクト!
    宝塚のメイクはほんとうにすごくて、歌舞伎や京劇とまではいかないけど、
    あれくらいの「作り込み感」や「非日常感」はあります。

     

    みなさんは『ベルサイユのばら』を知っていますか?
    あのオスカルのイメージね。目キラッキラでしょ。
    宝塚が公演する劇場は2000人規模の大劇場なので、
    そこでひとりひとりの観客に表現をとどけようと思ったら
    あれくらい化粧しないとねーダメなんですね。
    はじめは驚くけど、すぐ見慣れます笑。

     

     

    宝塚初心者のあなたのために。(わたしもだけど)
    説明しよう!
    宝塚歌劇団とは、約450人の女性だけで構成される劇団。
    世界で唯一、女性が男性の役を演じるのであーる。
    1913年に小林一三により創設。
    「清く、正しく、美しく」をモットーに今年で98年となる伝統がある。
    宝塚には「花・月・雪・星・宙」の5組と、どの組にも属さない「専科」があーる。

     

    それぞれの組の頂点に立つのが「トップスター」。
    この「トップスター」こそ、宝塚の人気のヒミツなのだー!
    宝塚で「トップスター」と呼ばれるのは「男役」だけ。
    すべて女性の劇団なので、男性の役も女性が演じる。
    それを「男役」というんですね。で、相手のヒロイン役を「娘役」と言う。
    女優の黒木瞳や「〇麦」冷やして待っていてくれる壇れいは、娘役の元トップ。
    天海佑希や真矢みきは一時代を築いた男役の元トップスター。

     

    トップスターは、その組の中心に立ち、みんなの熱い視線と期待を一身に背負う。
    すべての公演で主役をはり、舞台演出、脚本、配役もそのトップスターが映えるように
    トップスターを中心に作られていく。これは徹底してます。
    わたしがちゃんと「トップスター」という言葉を理解したのは、
    昨年NHKで放送された「ディープピープル」という番組。
    元トップスターの3人(真琴つばさ・春野寿美礼・安蘭けい)が
    宝塚の世界を語り合っていてそれはそれはおもしろかった!

     

    で、こりゃ実際に観に行くしかない!と思ったわけ。
    わたしが1月3日に観た宙組公演『誰がために鐘は鳴る』でも、
    もちろん主役は宙組トップスターの大空祐飛という男役。
    もうね、登場した瞬間に割れんばかりの拍手なのさ!!
    舞台上どこにいても常に中心。常にスポットライト。
    最前列の席のすぐ目の前に、「銀橋(ぎんきょう)」という
    ファンタジーな名前のついた舞台のせり出し部分があり、
    そこにトップスターが来ようもんなら拍手倍増!
    踊って拍手!歌い終わってさらに拍手喝采!
    それは相手役の娘役トップに対する拍手とも、
    二番手三番手といわれる男役に対する拍手とも違う、
    「いよっ待ってました!あんたが大将!」の大拍手なのだ。

     

    歌舞伎で、顔をキリッとキメる「見得を切る」というしぐさがあるけど、
    宝塚もあります。演じる役の心情をぐぐぐと歌い上げたとき、
    スポットライトがピッカーン!って当たって、顔をキメるんですね。
    これがまたカッコいいよね~!!
    盛り上げ方を知ってるっていう感じです。さすが宝塚!

     

    いやー素直に拍手したくなるよあれは。
    お芝居は重たいシリアスなシーンもありつつ
    表情とかセリフだけみるとね、ちょっとね、大げさっぽいさ。
    内容も誰にでもわかりやすいストーリーが多いさ。
    でもねーそんなことじゃないの!!なんたって夢の世界なので!

     

    たとえば劇団四季で、みんなが「キャッツ!ニャーッ!」とか歌ってても
    うさんくせえっ!とは思わないでしょ?
    でも、歌が下手だとがっかりじゃないですか。
    その点、宝塚は歌がうまいわ踊れるわ早着替えできるわ(!)で
    観てて飽きないんだねーこれが。

     

    わたしは大学時代から舞台をいろいろ観ました。
    大声張り上げて「オレは悲しいんだー!」「わたしは嬉しいのー!」と
    感情を強引に観客と共有しようとする、あのキモい感じにいい加減ウンザリして、
    最近はシンプルで前衛的な舞台だけ行くようにしていた。
    そんな中、宝塚は思ってもみなかった方向から、
    どどどどどどすん!と五寸釘っつーか五十寸釘(150センチ位)うたれたような
    衝撃を感じました。

     

    東京宝塚劇場の内装は、もはやシンデレラ城。
    一歩劇場に入ればそこはめくるめくザ・タカラヅカワールド。
    いいですねーこの別世界感!!
    幕が上がる直前、まず場内アナウンスがあります。
    主演するトップスターの大空祐飛のあいさつが流れるのさ。
    そのあとオーケストラの生演奏とともに開演。
    今回は、第一幕、幕間30分、第二幕。そのあと短時間のショー。
    ショーはダンスと歌中心でみせていきます。
    さっきまでしっとりしんみりお芝居やってたのに
    幕が下りた瞬間いきなりミラーボールがピカピカクルクル回りだして
    180度空気が変わってみんな踊りだすわ歌いだすわ!
    『誰がために鐘は鳴る』は、スペイン内戦の話なので
    フラメンコや闘牛をモチーフにした情熱的なダンスが
    総勢80名のタカラジェンヌによって披露される!
    キラキラしててド派手でめちゃくちゃ楽しいよ!!
    闘牛士に扮する男役はキレのある動きでひたすらカッコよく、
    フラメンコを踊る娘役はひたすら艶っぽく美しく。

     

    わたしがなによりビックリしたのは、
    男役が、すごくキレイで華があって、しかも色気があること。
    あの独特なメイクのせいもあるけど、
    宝塚の男役は、リアルな男性像ではなくて
    女性が「こんなカッコいい男の人がいたらいいのに~!」と思わせる
    いわばデフォルメされた理想的な男性を演じます。
    それこそ何千人の観客を非日常空間へと一瞬で引きずりこむ
    歌唱力とオーラと目ヂカラとパフォーマンス!
    最初はおもしろがって笑いながら観てたわたしも、
    すっかり見入ってしまったのでした。
    母は芝居のラストで泣いてました。
    いや、わかるよ母!グッとくるよね!あのラストはね!

     

    さあ、いよいよショーのフィナーレ。
    キャスト全員が舞台後方にあらわれた26段の大階段(!)から、次々とおりてくる。
    そしてトリを務めるのはもちろん、トップスター!
    だれよりも大きくて豪華な羽根を背負ったトップスターが、
    スポットライトの大きな円い光のなかにドドーンと立つ。
    その姿に、今日いちばんの盛大な拍手が送られます。

     

     

    なんだろう、あのとてつもない劇的な空間は。
    不覚にも感動しました。

     

    全身総スパンコールでキラッキラの衣装に
    どでかい真っ白な羽根(何十キロもある)を背負って
    歌いながら、観客の拍手に笑顔で応える。
    拍手しながら華やかな舞台の成功をいっしょに祝っている気分。

     

    100年近い歴史が積み重ねてきた技術とブレない表現。
    宝塚は本物のエンタ~テ~イメ~ン~ト~~~~~!
    決して後悔させない夢の~せ~か~い~~~~~!

     

    死ぬ前に一度、本場宝塚大劇場の最前列で観てみたいもんです!
    ちなみに今回は2階席の6列目の右はじ。
    舞台を見下ろす感じになるけど、心から楽しんじゃったねー。

     

    みんなもゆ~け~!タカラヅ~カ~に~~~~~~!

  • ビューティー署の異常な事件簿3 金縛りの回

    日本全国が大盛り上がりで聖夜を迎えようとしていた12月23日未明、
    「メディキュット(仮名)」が、都内に勤務する女性の足に金縛りをおわせた容疑で
    ビューティー署に逮捕されたとのニュース速報が入った。
    この事件は金縛りをおわせるという特殊なケースだったため、
    同署は事件のあった8月から「金縛り事件捜査本部」を設置しており、
    都内だけでなく全国的に捜査網を広げていた矢先の逮捕だった。

     

    この事件は、捜査当初から謎めいた部分が多かった。
    そう、本件は「犯人」の痕跡がまったくつかめず被害だけが報告されるという
    金田一少年および名探偵コナンの得意とする「密室事件」だった。
    ただ事件発生当夜、被害にあった女性のほかに「ふとん」や「まくら」といった
    女性とごくごく親しいプライベートな関係のものが部屋にいたことから、
    同本部は顔見知りの犯行が濃厚として捜査を続けていた。
    しかし前述の「ふとん」や「まくら」には同女性の安眠を促進こそすれ、
    犯行の動機がないことがはっきりしており、捜査は難航を極めていた。

     

    捜査開始から3ヶ月ほど経った頃、担当捜査官とのなにげない会話のなかで
    女性がぽろっと「ラベンダー色のやつがね・・・」と口にし、
    同捜査官が血相を変えてその先を聞きだしたところ、
    その時はじめて、「メディキュット(仮名)」が事件当夜、女性と一緒にいたことが判明した。
    さらに、女性の足のもっとも近くにいたことが関係者の証言で裏付けられたため、
    同署は「メディキュット(仮名)」の逮捕に踏み切り、現在取り調べをおこなっている。

     

    同女性の話によれば、女性はその日、仕事で疲れはてむくむくとむくんだ足に、
    同僚から「メディキュット(仮名)」を紹介された。
    むくみとの関係に悩んでいた女性は、「メディキュット」の優しい機能性にひかれ意気投合。
    その日は翌朝まで一緒に過ごしたのだという。
    その際、「メディキュット(仮名)」がラベンダー色だったことで
    まるで冬ソナのヨン様のような落ち着きオーラに癒され安心した女性は、
    いつの間にかうとうとと眠りこんでしまい、次に気づいたのは金縛りの時だった。

     

    女性は霊感というものがそもそもなく、金縛りのような経験は今までなかったため、
    突然のことでかなり混乱したという。
    頭は起きていて目は部屋の様子を見ることができるのに、肩から下は動かせない。
    その時の感じは、まるで「エクソシスト」か「パラノーマル・アクティヴィティ」のようだったと
    見てもいないホラー映画にたとえて証言している。
    からだを動かそうとしても、足が動かないのでなにもできず、
    上半身はかろうじて力が伝わる感じがあったが、足は、もう、
    鉛のようにそこに横たわっているだけで、てんで動く気配がなかったという。

     

    取り調べに対し、「メディキュット(仮名)」は、
    まるで陳列された商品のごとく黙秘をつづけており、
    同署はその物言わぬ容疑者に対して、根気強く説得を試みている。

     

    「メディキュット」をよく知るドラッグストアの店員の話では、

     

    ―メディキュットはどんなものですか?
    ―足に加圧して、足のむくみをとってくれる優秀なやつですよ。金縛りにあわせるなんてちょっと聞いたことがありませんねえ。タナカさんある?金縛りとか。ないよねえ。だってむくみとるだけだもんねえ。足が細くなったっていう声は聞きますけどね

     

    とのこと。
    ビューティー署は、他店の「メディキュット」の仕入れ担当や購入者などに
    徹底して聞き込みをおこなったが、
    やはり金縛りにあわせる被害をだした例はほかに見当たらず、
    これ以上の事件解明はすすまなかった。

     

    翌、24日クリスマスイブ。
    ビューティー署から「金縛り事件捜査本部」の解散が発表され、
    同時に「メディキュット(仮名)」に対する取り調べの中止、釈放が決まった。

     

    ここは記者会見場。
    沈痛な面持ちであらわれた捜査本部長の姿が痛々しい。

     

    ―われわれ金縛り事件捜査本部は、同本部の解散と「メディキュット(仮名)」容疑者の釈放をここに発表する。その理由は、①容疑者が完璧な黙秘を続けており、ウソ発見器も役に立たず、これ以上の捜査は不可能なこと。それ以上に、②そもそも金縛りの原因が「メディキュット(仮名)」容疑者側にあるのか、それとも被害者側にあるのか本部内ではげしく意見が分かれたこと。以上

     

    ある大手新聞社の記者から質問が飛んだ。

     

    ―かりにも生活用品であるメディキュットを逮捕したわけだが、その決め手は?
    ―メディキュットは女性がむくみとの関係に悩んでいることを知り、そこに積極的に介入したことは事実だ。頑固なむくみとなかなか別れられない女性に対ししびれを切らした末の犯行と断定し、逮捕に踏み切った

     

    ―その判断は正しかった?
    ―今もそう思っているが、状況証拠だけの起訴はできない。被害にあった女性も和解を望んでいるため、今回は無罪放免となった

     

    「怪しきは罰せず」の基本原理を貫いた今回の一件。
    ビューティーサンタ署からのクリスマスプレゼントとみるのか
    手ぬるい捜査とみるのか、世論は割れそうだ。

     

    同日午後、女性は捜査本部の解散と取り調べの打ち切りについてコメントを寄せた。
    「メディキュット」については「これからもいい関係を続けていきたい」などと前向きな発言がみられ、
    関係改善を望んでいることから、両者の和解は時間の問題とみられている。

  • ビューティー署の異常な事件簿2 にんじんの回

    今から、3年前の夏、ドイツを旅行した際に
    ある女性が「太いにんじん」だと暴露された事件に関し、
    在ドイツビューティー警察は日本時間の昨夜未明、
    暴露したと思われるドイツ人淑女の二名の身柄をビューティー確保した。
    ドイツ人淑女二名は一連の暴露容疑を認める供述をしており、
    毅然とした態度で、ビューティー取り調べに応じているらしい。

     

    同警察によって明らかにされた当時の事件の詳細は次のとおりである。

     

    3年前の晩夏、ドイツのドレスデンという古都を家族で訪れていた女性は、
    その日、オレンジ色のタイツ、短めの黄色いキュロット、
    中央に赤くハートが縫いこまれた半袖セーターという
    かなりエッジのきいた服装で、街を散策していた。
    ちょうど午後の日差しが道路に照りつけ、道行く人々の顔もおだやかそのもの。
    そこには、ぬくもり、憩い、静けさ・・・人間が求めてやまない
    ある究極の平和な光景が広がっていた。
    その強大な光の前では、小さないざこざが発生する気配さえも
    残されていないようにみえた。
    何も起こらないはずだった。美しい時間が流れていたはずだった。

     

    女性が、ドレスデンの歴史ある街並みに感動しながら、
    日差しに向かってずんずん歩いていたところ、
    前からドイツ人と思われる白髪のレディ二人が歩いてきた。

     

    そうして、女性はそのレディたちとすれ違った。

     

    のんきに散歩を楽しんでいた女性は、その時
    なにか言いようのない違和感を感じたと、状況を振り返って語っている。

     

    突然、隣を歩いていた父親がはっはっはっはと声に出して大笑いしたので、
    女性は少し面食らいつつも、その笑いの意味をたずねた。
    すると、思いがけない言葉が父親の口から発せられたのである。

     

    「おまえ、太いニンジンって言われてたぞ」

     

    この瞬間、調書をとっていたビューティーポリスは、
    思わずにぎっていたペンを取り落としそうになった。
    そしてあまりのことだったためか、「この気持ちを、どう伝えればいいかわからない。とにかく、私は女性の足をまじまじと見てしまった」と欄外に走り書きしている。

     

    時すでに遅し。
    風のようにあらわれ嵐のような暴露をぶちかましたレディ二人は、
    ドレスデンの街へさっそうと消え去っており、
    あとには父親の高らかな笑い声だけがいつまでも残されたという。

     

    ドイツ語に通じている父親の話によれば、レディ二人は
    物珍しいものを見たという驚きの表情で、目を丸くして口もやや半開きだったという。

     

    「太いにんじん」暴露という被害に遭った女性は、
    暴露がドイツ語でそりゃもう明るく楽しく朗らかにおこなわれたため、
    また日本とドイツの国際問題に発展することを恐れ被害届をださなかったため、
    泣き寝入りするしかなかった。

     

    在ドイツビューティー警察は、日本人でそのような暴露被害に遭ったケースを
    過去100年間にさかのぼって調べているが、
    今のところ同じような被害は報告されていないとの声明を出した。
    また、レディ二人があまりにも礼儀正しく、知的で、物静かであることから、
    同警察も、暴露という犯行の計画性がみじんもないことを薄々感じており、
    ただそこに「太いにんじん」が突如出現したことによる不可抗力の結果、
    つまりビューティー的正当防衛であるとのレディ側の主張を認めざるをえないとしている。

     

    同女性が日本に無事帰国し、最寄りのビューティー署に今回の事件を届け出てから3年。
    ようやくの身柄確保となったわけだが、
    マスコミが聞くまでもなく、今の心境を直筆FAXで送ってきた。

  • ビューティー署の異常な事件簿1 サラダの回

    12月3日日中、都内某所のフードコートで、
    男が「ゆでたまご入れ忘れ」の疑いで
    ビューティー署によるビューティー的事情聴取を受けた。

     

    男は、ある弁当売り場の店員に扮してお客の対応をしているところを、
    巡回中だった同署のビューティーポリスに発見された。
    まさに犯人は犯行現場に戻る、である。

     

    ドランクドラゴン塚地じゃない方つまり鈴木似のその男は、
    メガネをかけているにもかかわらず、
    ある女性のテイクアウト品に「ゆでたまご」だけを入れ忘れた疑い。

     

    その際、そのメガネひょっとして伊達では?という
    確信犯的犯行の可能性が浮上したが、
    そのメガネがさほどハイセンスではないことが鑑識結果から判明し、その線は消えた。

     

    女性のテイクアウト品が、
    「スピナッチ(ホウレンソウ)、きゅうり、にんじん、ゆでたまご、グリルベーコン」
    という栄養バランスの考え抜かれたメニューであったこと、
    同女性にとってランチが1日のモチベーションを左右するきわめて真摯な営みであること、
    さらに男のそのような「うっかり」が初めてではないことなどを踏まえ、
    同署はこの事件の社会的影響、重大性を重く見て、
    ビューティー的業務上過失サラダ罪の適用を検討している。

     

    同署からマスコミあてに公開された事件の概要は以下のとおりである。

     

    12月3日、都内某所に勤める女性は、熟考の末、
    「今日はサラダダダダダダーン!」と歌いながら、ひとりで昼食を買いに出かけた。
    その日は前日から降り続いた雨がやみ、快晴が広がるすばらしい天気。
    そう、このときまで同女性はまさかこのような事件に巻き込まれるとは、ゆめゆめ思わなかった。
    女性は、以前にもライトな「うっかり」をしでかした
    (その時の届け出は同署の記録にない)問題の男がその店にいるのを見て、
    少しだけ不安になったと言う。

     

    注文票に赤チェックを入れ、
    そのオーダーどおりに完成されたモノを提供されるというシステム。
    男に注文票を渡すと、男はめんどうくさそうにサラダを取りはじめた。
    女性はなんとなく胸騒ぎの前兆のような軽い居心地の悪さを感じながら、
    男の不器用な、そう言ってよければ少しイライラする粗雑な手つきを見ていた。

     

    会計が済み、いざ会社へ戻ろうという時に、女性はある異変を感じた。
    若干、稲川淳二調でその時の様子を語ったという。

     

    「なんかねえ、帰り道急にねえ、おかしいと思ったんですよねえ。あれ、なんか変だな変だなーって。おかしいなおかしいなーって」

     

    女性は、ビューティー的な虫の知らせにより事件をいち早くからだで察知していたのだ。

     

    ない!

     

    注文票のチェック欄にたしかに赤チェックを入れたトッピング「ゆでたまご」が!
    不安的中!ひっくり返したり、凝視したり、裏表を再三チェックした上で、
    その店にもんどり打ちながら引き返す女性。

     

    その場で「ゆでたまご入ってる?」と問いただした女性に対し
    男は当初シラを切るつもりで「ほげ?」的なとぼけ顔を見せていたが、
    女性の睨みをきかせた目線に気づき、こちらを警戒しながらちいさな声で
    「え?なにたまご?ゆでたまご?」とぶつぶつ言いながら、
    もうすでにドレッシクングを混ぜ終えたサラダの上に、
    バサッと無造作に「ゆでたまご」をトッピングした。

     

    ドランクドラゴン塚地じゃない方つまり鈴木似の男は、
    「すやせんしたー」という間の抜けた無感情な声で謝罪すると、
    さっさと通常業務に戻っていった。

     

    女性は、再発防止のためという強い正義感から、
    即座に同署にビューティー通報したという。

     

    男は、ビューティー的取り調べに非協力的な姿勢を崩しておらず、
    「これっていつおわるんすか。ほげ」と1分ごとに聞いているらしい。

     

    同署は、周辺の店、お客などの聞き込みなどを通じて、
    男の余サラダ罪を追及する構えだ。