ビューティー署の異常な事件簿3 金縛りの回

日本全国が大盛り上がりで聖夜を迎えようとしていた12月23日未明、
「メディキュット(仮名)」が、都内に勤務する女性の足に金縛りをおわせた容疑で
ビューティー署に逮捕されたとのニュース速報が入った。
この事件は金縛りをおわせるという特殊なケースだったため、
同署は事件のあった8月から「金縛り事件捜査本部」を設置しており、
都内だけでなく全国的に捜査網を広げていた矢先の逮捕だった。

 

この事件は、捜査当初から謎めいた部分が多かった。
そう、本件は「犯人」の痕跡がまったくつかめず被害だけが報告されるという
金田一少年および名探偵コナンの得意とする「密室事件」だった。
ただ事件発生当夜、被害にあった女性のほかに「ふとん」や「まくら」といった
女性とごくごく親しいプライベートな関係のものが部屋にいたことから、
同本部は顔見知りの犯行が濃厚として捜査を続けていた。
しかし前述の「ふとん」や「まくら」には同女性の安眠を促進こそすれ、
犯行の動機がないことがはっきりしており、捜査は難航を極めていた。

 

捜査開始から3ヶ月ほど経った頃、担当捜査官とのなにげない会話のなかで
女性がぽろっと「ラベンダー色のやつがね・・・」と口にし、
同捜査官が血相を変えてその先を聞きだしたところ、
その時はじめて、「メディキュット(仮名)」が事件当夜、女性と一緒にいたことが判明した。
さらに、女性の足のもっとも近くにいたことが関係者の証言で裏付けられたため、
同署は「メディキュット(仮名)」の逮捕に踏み切り、現在取り調べをおこなっている。

 

同女性の話によれば、女性はその日、仕事で疲れはてむくむくとむくんだ足に、
同僚から「メディキュット(仮名)」を紹介された。
むくみとの関係に悩んでいた女性は、「メディキュット」の優しい機能性にひかれ意気投合。
その日は翌朝まで一緒に過ごしたのだという。
その際、「メディキュット(仮名)」がラベンダー色だったことで
まるで冬ソナのヨン様のような落ち着きオーラに癒され安心した女性は、
いつの間にかうとうとと眠りこんでしまい、次に気づいたのは金縛りの時だった。

 

女性は霊感というものがそもそもなく、金縛りのような経験は今までなかったため、
突然のことでかなり混乱したという。
頭は起きていて目は部屋の様子を見ることができるのに、肩から下は動かせない。
その時の感じは、まるで「エクソシスト」か「パラノーマル・アクティヴィティ」のようだったと
見てもいないホラー映画にたとえて証言している。
からだを動かそうとしても、足が動かないのでなにもできず、
上半身はかろうじて力が伝わる感じがあったが、足は、もう、
鉛のようにそこに横たわっているだけで、てんで動く気配がなかったという。

 

取り調べに対し、「メディキュット(仮名)」は、
まるで陳列された商品のごとく黙秘をつづけており、
同署はその物言わぬ容疑者に対して、根気強く説得を試みている。

 

「メディキュット」をよく知るドラッグストアの店員の話では、

 

―メディキュットはどんなものですか?
―足に加圧して、足のむくみをとってくれる優秀なやつですよ。金縛りにあわせるなんてちょっと聞いたことがありませんねえ。タナカさんある?金縛りとか。ないよねえ。だってむくみとるだけだもんねえ。足が細くなったっていう声は聞きますけどね

 

とのこと。
ビューティー署は、他店の「メディキュット」の仕入れ担当や購入者などに
徹底して聞き込みをおこなったが、
やはり金縛りにあわせる被害をだした例はほかに見当たらず、
これ以上の事件解明はすすまなかった。

 

翌、24日クリスマスイブ。
ビューティー署から「金縛り事件捜査本部」の解散が発表され、
同時に「メディキュット(仮名)」に対する取り調べの中止、釈放が決まった。

 

ここは記者会見場。
沈痛な面持ちであらわれた捜査本部長の姿が痛々しい。

 

―われわれ金縛り事件捜査本部は、同本部の解散と「メディキュット(仮名)」容疑者の釈放をここに発表する。その理由は、①容疑者が完璧な黙秘を続けており、ウソ発見器も役に立たず、これ以上の捜査は不可能なこと。それ以上に、②そもそも金縛りの原因が「メディキュット(仮名)」容疑者側にあるのか、それとも被害者側にあるのか本部内ではげしく意見が分かれたこと。以上

 

ある大手新聞社の記者から質問が飛んだ。

 

―かりにも生活用品であるメディキュットを逮捕したわけだが、その決め手は?
―メディキュットは女性がむくみとの関係に悩んでいることを知り、そこに積極的に介入したことは事実だ。頑固なむくみとなかなか別れられない女性に対ししびれを切らした末の犯行と断定し、逮捕に踏み切った

 

―その判断は正しかった?
―今もそう思っているが、状況証拠だけの起訴はできない。被害にあった女性も和解を望んでいるため、今回は無罪放免となった

 

「怪しきは罰せず」の基本原理を貫いた今回の一件。
ビューティーサンタ署からのクリスマスプレゼントとみるのか
手ぬるい捜査とみるのか、世論は割れそうだ。

 

同日午後、女性は捜査本部の解散と取り調べの打ち切りについてコメントを寄せた。
「メディキュット」については「これからもいい関係を続けていきたい」などと前向きな発言がみられ、
関係改善を望んでいることから、両者の和解は時間の問題とみられている。