ビューティー署の異常な事件簿2 にんじんの回

今から、3年前の夏、ドイツを旅行した際に
ある女性が「太いにんじん」だと暴露された事件に関し、
在ドイツビューティー警察は日本時間の昨夜未明、
暴露したと思われるドイツ人淑女の二名の身柄をビューティー確保した。
ドイツ人淑女二名は一連の暴露容疑を認める供述をしており、
毅然とした態度で、ビューティー取り調べに応じているらしい。

 

同警察によって明らかにされた当時の事件の詳細は次のとおりである。

 

3年前の晩夏、ドイツのドレスデンという古都を家族で訪れていた女性は、
その日、オレンジ色のタイツ、短めの黄色いキュロット、
中央に赤くハートが縫いこまれた半袖セーターという
かなりエッジのきいた服装で、街を散策していた。
ちょうど午後の日差しが道路に照りつけ、道行く人々の顔もおだやかそのもの。
そこには、ぬくもり、憩い、静けさ・・・人間が求めてやまない
ある究極の平和な光景が広がっていた。
その強大な光の前では、小さないざこざが発生する気配さえも
残されていないようにみえた。
何も起こらないはずだった。美しい時間が流れていたはずだった。

 

女性が、ドレスデンの歴史ある街並みに感動しながら、
日差しに向かってずんずん歩いていたところ、
前からドイツ人と思われる白髪のレディ二人が歩いてきた。

 

そうして、女性はそのレディたちとすれ違った。

 

のんきに散歩を楽しんでいた女性は、その時
なにか言いようのない違和感を感じたと、状況を振り返って語っている。

 

突然、隣を歩いていた父親がはっはっはっはと声に出して大笑いしたので、
女性は少し面食らいつつも、その笑いの意味をたずねた。
すると、思いがけない言葉が父親の口から発せられたのである。

 

「おまえ、太いニンジンって言われてたぞ」

 

この瞬間、調書をとっていたビューティーポリスは、
思わずにぎっていたペンを取り落としそうになった。
そしてあまりのことだったためか、「この気持ちを、どう伝えればいいかわからない。とにかく、私は女性の足をまじまじと見てしまった」と欄外に走り書きしている。

 

時すでに遅し。
風のようにあらわれ嵐のような暴露をぶちかましたレディ二人は、
ドレスデンの街へさっそうと消え去っており、
あとには父親の高らかな笑い声だけがいつまでも残されたという。

 

ドイツ語に通じている父親の話によれば、レディ二人は
物珍しいものを見たという驚きの表情で、目を丸くして口もやや半開きだったという。

 

「太いにんじん」暴露という被害に遭った女性は、
暴露がドイツ語でそりゃもう明るく楽しく朗らかにおこなわれたため、
また日本とドイツの国際問題に発展することを恐れ被害届をださなかったため、
泣き寝入りするしかなかった。

 

在ドイツビューティー警察は、日本人でそのような暴露被害に遭ったケースを
過去100年間にさかのぼって調べているが、
今のところ同じような被害は報告されていないとの声明を出した。
また、レディ二人があまりにも礼儀正しく、知的で、物静かであることから、
同警察も、暴露という犯行の計画性がみじんもないことを薄々感じており、
ただそこに「太いにんじん」が突如出現したことによる不可抗力の結果、
つまりビューティー的正当防衛であるとのレディ側の主張を認めざるをえないとしている。

 

同女性が日本に無事帰国し、最寄りのビューティー署に今回の事件を届け出てから3年。
ようやくの身柄確保となったわけだが、
マスコミが聞くまでもなく、今の心境を直筆FAXで送ってきた。