太陽の日々

2020年の東京オリンピック開催まで、2年を切ってしまいました。

先日、代々木の新国立競技場のあたりを通ったら、
ちょっと前まで足場の鉄骨だらけだった外観も
その完成型がイメージできるくらいには仕上がっていて、
何だって出来上がっていくんだなあ、
そしていつかは終わっていくんだなあ、となぜか諸行無常の心境になりました。

まだ、始まってもいないのに。

ついでに「どんな仕事だって、いつかは終わる。そこに納期がある限り」と、
ハードな業務に疲弊して、自分を鼓舞していた若い頃も思い出しました。

 

なにかともめていた築地市場の豊洲移転も、ひとまずは着地したように、
2020年もやって来て、つつがなくオリンピックも終わるのでしょう。

終わるといいと思います。

日本で最初のオリンピックが東京で開催された1964年のことは、
さすがに覚えてはいませんが、戦後の高度成長期だったこの時期の
国をあげてのもう一つの大きなイベントのことは記憶にあります。

 

1970年の「日本万国博覧会」通称“大阪万博”へは
子どもの頃に家族で赴きました。

広島に住んでいたわたしたち家族と東京にいた親戚家族が、
夏休みに大阪で合流して万博を観に行く、
というのは子ども心にも一大イベント。

しかし会期中におよそ6500万人が訪れた
(当時の日本の人口は約1億人)というだけあって、
ひどく暑かったことと、ただただ大勢の人を目にしたこと、
妹とお揃いの胸に迷子札のついた黄色いワンピースを着て、
家族とはぐれないように必死で後を追って歩いたことだけが記憶にあり、
アメリカ館、ソ連館といったパビリオンのことは、
中に入ったかどうかも覚えていません。

それでも、当時その前で撮影した家族写真が残っている、
岡本太郎作「太陽の塔」のことは忘れられません。

そして今年2018年夏、その色あせたカラー写真の記憶は、
くっきりとデジタルリマスター化されました。

 

この9月、わたしたち夫婦は48年ぶりに「太陽の塔」の真下に
立っていました。

わたしより2歳年上の主人も当時、名古屋から万博に行っているクチです。

今年の3月から、太陽の塔は内部公開されていて、
その見学ツアーに参加したんです。

高さ40mのその異形に近づいたのは、背後からでした。

過去を象徴するという「黒い太陽」にまず圧倒され、
“おー”“すごい”“でかい”“かっこいい”という、
語彙の乏しい感想が漏れるばかりでした。

前に回っても“おー”“すごい”(以下同)。

金色に輝き未来を表す頭部の「黄金の顔」、
腹部にある現在を表現した「太陽の顔」、
3つの顔の周りをぐるぐる回って、
さまざまな角度から眺め、写真を何枚も撮りました。

 

ほどなくして内部公開ツアーの予約時間に。

わたしは事前情報なしに参加したので、
内部の展示空間にある「生命の樹」のこともまったく知りませんでした。

地上から黄金の顔の方に向かって伸びて行く樹や枝に
アメーバなどの原生生物から、爬虫類、恐竜、人類にいたるまでの
生物の模型が連なっている様は圧巻としか言いようがなく、
まさに芸術が爆発していました。岡本太郎、頭おかしい(賛辞です)。

そしてあの左右にひろがった腕の中も空洞になっていて、
指先の方まで階段がしつらえてあり、
万博当時はそこを通って外の空中広場に出られたそうです。

この造形を48年前に完成させた岡本太郎に敬服し、
また48年後に修復した関係者に敬意を表しました。

 

実は何年か前に、太陽の塔を見て来たという知り合いに、
その魅力を熱く語られたことがあったんですが、その時は
「へーそうなんだ、おもしろそうだねー。子どもの頃に万博は行ったけどさー」、
と大したリアクションもできませんでした。すいませんでした。

今なら、その人が口角泡を飛ばして語っていた、
語りたくなった気持ちが心からわかります。

あの造形を目の当たりにしたら、何かに魅入られ、
ちょっと興奮状態になります。

そしてその状態は意外と長く続きます。

今ならわたしも誰にでもその話をします。どうぞ聞きにきてください。

そしてわたし以上に魅入られた主人は、東京に帰ってからも、
公開中のドキュメンタリー映画「太陽の塔」を観に行き、
川崎にある「岡本太郎美術館」を訪れる計画を立てています。

岡本太郎の生き方や太陽の塔の造形は、エネルギッシュで、
どこかプリミティブでもあり、
女性より男性をひきつけるような気がします。

そう言えば、以前その魅力を熱く語ってくれた人も男性でした。

 

ネットで予約する内部公開がいつまで開催されているのかわかりませんが、
ぜひ行ってみてください。強くおすすめします。

行くのなら太陽が沈む前、消費税が10%になる前がいいと思います。


Users who have LIKED this post:

  • avatar