たまには開けてみる。

 

「職業柄、世の中のトレンドは把握しておくべきだと思うから。」

というのは半分建前で、社会人になってから映画館に行く頻度が増えた。

 

先月は、アカデミー賞を総なめした「パラサイト」を鑑賞。

 

ネタバレしない程度に言うと、韓国の格差社会が描かれており、

その舞台が、“半地下”の住居での暮らしだ。一家は極貧で、

お金を稼ごうにもまともな職に就くことすら難しい生活を送っている。

 

実際に韓国で起きていることなのだが、

デリバリーのピザ屋ですら働けないというのは驚いた。

言ったら働いている人に失礼だが、正社員ならともかく、

アルバイトであれば大抵は雇ってくれるであろうものと、

人手不足の日本に住んでいる感覚だと思ってしまう。

 

貧困のスパイラルは簡単に脱せない、と映画を見終えて強く感じる。

このような感情を感じるたび思い出すのは、

大学生時代にアルバイトをしていたコールセンターのこと。

 

私は、クレジットカードの督促業務に携わっていた。

簡単に説明すると、カードの引き落としがかからなかった人に

お金を振り込んでください、と電話をかけるホワイトで健全なウシジマくんである。

 

大抵の人は、数日後にちゃんと入金するので問題はない。

が、毎月引き落としのかからない常連の方もいる。

 

私は、“そういう人”に電話をかけていた。

 

これを延滞者と呼んでいて、1カ月遅れている人は延1、

2カ月遅れている人は延2と言い、最大で延4まである。

その先はもうお手上げ案件なので関わらない。

 

9割の電話は誰も出ない。

みんな督促の電話だと分かっているからだ。

まれに出ることがあって、そのときは大抵、揉める。

 

「銀行にいつ行けるか分からないんですよねー」とごまかす人もいれば、

「今週中になんとかします」と誠意を見せる人もいれば、

「払えないって言ってんだろ!」と逆ギレする人もいれば、

「今日明日は厳しくて…今月まで待ってくれない?」と媚びる人もいる。

電話の相手が怒鳴り狂った日には、1時間近く電話を切ることができない。

 

「払います。」と口では言うのだが、嘘だとすぐわかる。

常連の方は、給料日が入っても家賃を払って残りを生活費に当てるので、

数万でもクレジットの残債を払う余裕がない、と知っているから。

 

(こうやって書くとブラックなアルバイトをしているように

思われるかもしれないが、先ほども言ったように9割は出ないので、

トラブルなく平穏に業務を終える日の方が多い。)

 

ある日、電話をかけながら「頑張れば返せそうな額なのに」

と隣にいる社員さんに呟いたことがある。

 

そうしたら、

「こういう人は、他にも借りてるんだよ。総額で見たら、こんなもんじゃない。」

と言われた。

 

ゾッとした。

うちでは数万ほど借りている人が、

他のカード会社と合わせるとその何倍も借金していたりする。

わたしが見ていた数字は、氷山の一角にすぎなかった。

 

そう考えると、利子がついていくこのお金たちが、

簡単には返せないことを学生ながらに理解した。

 

マイナスの生活をゼロに戻すのは、想像以上に難しい。

大変だと同情しつつも、“そういう人”たちと接する中で

心の中では「こういう人にならなくてよかった。」「自分はまともだ。」

と安心している自分もいた。

 

そして、そのような感情はあまり長く感じたくないとも

アルバイト帰りによく思っていた。

 

“そういう人”にきれいじゃない世界を見せられている気がするし、

覚えなくていい感覚とか感情を教えられている気がするし、

何より自分が“そういう人”になる可能性が0ではないのだと考えさせられるからだ。

 

パラサイトは、リアルながらもそういう一面を面白くエンタメに昇華している。

でもやっぱり、観たあとに普段は考えなくてもいい社会の闇が片隅に残る。

 

だけど、知らないより知っていた方がいいではないか。

意識が高い人を見て身が引き締まるように、

“そういう人”を見て自分の生活を、自分のきれいではない感情を、

自覚して見つめなおす瞬間も必要だろう。

 

「臭い物に蓋をする」というが

たまには開けて匂いを自ら嗅いでみたほうが、

平和ボケ防止になるのではないか。

 

気がつけば、長々と映画の宣伝を書いてしまったような気がする…。

次回はコピペ最終回です。

 

映画に出てきたチャパグリ、病みつきになる味。

 

おわり。


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