写真

社会人になった年からの習慣で、

年末年始とお盆の休みには、帰省のついでに

地元の友人たちと会うことにしている。

全員小学校からの顔なじみで、もう20年以上の付き合いだ。

 

年に2回しかない貴重な機会。

せっかくだから、できるかぎり濃い時間にしよう。

などという意気込みは全くない。

どうでもいい話をしながら、メシを食べたり、だらだらとゲームをしたり。

やっていることは昔と変わらない。

そして、そろそろ疲れてきたなという雰囲気になったら、

また明日にでも会うかのようなテンションで、すぐに解散してしまう。

これくらいさっぱりした関係が、今の僕らにはちょうどいい。

のだが、数年前からちょっと気になっていることがある。

 

集まっている時に写真撮ったこと、あったっけ?

 

ためしにスマホのカメラロールを見返してみたが、

会の写真は1枚も存在していなかった。

今のスマホは2013年から使っている。

つまり、少なくとも5年以上は撮っていないということだ。

少なくとも何枚かは撮っているだろうと思っていたが、

まさか1枚も撮ってなかったとは。

友人たちが撮っている可能性はないだろうか。

いや、そんな記憶はない。

多分、食べた料理すら、誰も撮っていないだろう。

「別に、写真くらいテキトーに撮ればいいじゃないか」

そう言われると、まあ実際そのとおりではあるのだが、

ここまで来ると今更感が出てきて、逆に撮りづらい。

多分、他のやつらも同じように感じているのではないだろうか。

しかし、繰り返しになるが年に2回しか会わないわけで、

もうちょっとこう、思い出を残す努力をしてもいいはずだ。

 

思い出を残す努力といえば、数年前の夏、

北海道の小樽へ行った時に出会った中国人旅行客のことを思い出す。

運河の側を歩いていたら、いきなり

写真を撮ってくれと鼻息あらく頼まれたのだが、

とにかくこだわりが凄かった。

大抵、見ず知らずの人に写真を頼んだら、

ちょっとくらい気になる部分があっても、

まあいいやとOKを出してしまうのではないだろうか。

だが、彼は違った。

自分の納得がいくまで、何度も撮り直しを要求してきたのだ。

ああだこうだと指示されて、撮影して、

カメラを渡し、首を横に振られる。

このやりとりを何回しただろう。

最後あたりはもう彼もぐったりしていて、

なし崩し的にOKをもらった記憶がある。

ちょっと可哀相だったが、よく考えてみたら、

私のほうがよっぽど可哀相な状況だったと思う。

 

(なんでここまでしなきゃいけないんだろう)

(こんなにこだわる必要ないんじゃないか)

あの時はそう感じたが、今では

彼のこだわりがなんとなく理解できる気がする。

二度と小樽に来ることはないかもしれない。

だったら、できる限り最高の一枚を残したい…。

きっと彼はそういう気持ちだったのだろう。

 

あれから写真の腕は進歩していないが、

撮るという行為にはだいぶ慣れてきた。

年末年始に友人たちと会う時には、

彼の思い出への情熱を見習い、今度こそ写真を撮るつもりだ。

撮り直しも要求されないだろうから、そこは安心できる。

いつまで定期的に会えるかもわからないし。

会えた時に、撮っておこう。