マスク

恵比寿映像祭に行ってきた。
その名の通り、恵比寿で年に一度開催される
展示、上映、ライヴ・パフォーマンス、
関連イヴェントなどによって複合的に構成する、
映像とアートの国際フェスティヴァル(公式サイトより抜粋)だ。
会場の東京都写真美術館には、JRの駅からつながっている通路を通って行く。
多少距離はあるが、途中に動く歩道があるのでそこまで時間はかからない。

 

僕はこの道がけっこう好きだ。
まず、動く歩道を思う存分満喫できるのが良い。
ここまで長い動く歩道がある場所は、あまり見かけないように思う。
そして、エスカレーターに乗っている間に延々と続くビールの広告。
これがまた良い。
ビール、ビールと来て、またビール。
圧倒的なビール推しがたまらない。

 

映像祭の展示は、例年通りおもしろかった。
テーマが『トランスポジション 変わる術』という少し難解なものだったので
ちゃんと理解できているか不安もあるが、
どれも気になるものばかりだった。特に

『亡くなった人をロボットに憑依させて49日を過ごすプロジェクト』

が印象に残っている。
pep○er君のようなロボットに故人の顔の映像を貼り付けて、
事前に録音しておいた音声にあわせて動かせる・・・。
不気味だしロボット特有の違和感は拭えなかったが、
可能性を感じさせるプロジェクトだった。

 

展示以外にも気になったことがあった。
マスクを付けている人が沢山いたことだ。
時期的なことも関係しているだろうが、それにしても数が多い。
きっと、狭い空間の中に長時間いるから気を使ってのことなんだろう。
かく言う僕も、ちゃっかりとマスクを着用していた。

 

マスクというと、中学の頃の同級生S君のことを思い出す。
S君はクラスのやんちゃグループに所属していたが、
決して不良という感じではなかった。
少し大人しめで、いじられ役で、
クラスの中でも愛されていたキャラだったように思う。

 

しかし、中学校を卒業してから2年。
久々に見かけた彼の姿は、もはやヤンキーそのものだった。
ピンクのキ○ィーちゃんの健康サンダル。
上下だぼだぼのスウェット。
そして・・・口元にはマスク。

 

そのマスクはただのマスクではなかった。
なんと、日の丸が書いてあったのだ。
赤いマジックで塗りつぶされた赤い丸が、
彼のちょうど口部分に重なっていた。
彼には申し訳ないが、ダサすぎて僕は言葉を失った。

 

「よう!久しぶり!」
S君が声をかけてきたが、マスクが気になってしょうがない。
どうして日の丸なんかを・・・。
ワルぶるにしても、もっとこう、他のモチーフがあったんじゃないか。
しかも、よく見たら日の丸が微妙に歪んでいた。
ガーゼにマジックのペン先が引っかかって
思うように丸が描けなかったのだろう。
そこで僕はわかってしまった。
きっとS君は、がんばって日の丸を塗りつぶしたのだ。
きれいな丸になるように、裏写りしないように、慎重に、慎重に。
その姿を想像していたら、なんだか無性に切なくなってしまった。

 

「じゃっ!今から集会があるから!」
そう言うと、S君は仲間らしき者たちと共に去っていった。
あれから一度も彼に出会ったことはない。
もしかすると、あの日の丸マスクは
S君にとっての「変わる術」だったのかもしれない。
マスクを付けることで、過去のいじられキャラを捨て、
新たなヤンキーポジションを獲得していたのではないか。
今、どこで何をしているかわからないが、
きっとS君はたくましく世の中を生き抜いているに違いない。