第84の皿 手ぶらでは帰らない、自家製コンビーフ

川沿いの桜並木がもてはやされたので調子に乗り、
クリスマスにイルミネーションで枝を飾り立てる。
そうしたら、川が見下ろせる駅のホームに見物客があふれて全線で電車が止まり、
地元民や通勤客から大ひんしゅくを買った街がある。

 

本来、ハイソでもおしゃれでもないはずなのに、
近年は妙に浮き足だった印象が増すばかりで、「まあ落ち着け」と言いたくなる。
そんなエリアに昨年の9月、さらに浮き足だつ状況が起こっていた。
中心駅の高架下に連なる、新しいタイプの飲食店街が出現したのだ。

 

オープン時の熱狂が冷めた半年後に行ってみたら、
焼き鳥と煙草のにおいが立ち込めている印象しかなかったガード下が、
インスタ映えを求める女子たちがたむろする高架下にリノベーションされていた。
「ガード下」という言葉が似合い過ぎた客たちが、忽然と姿を消していたのだった。

 

そんな高架下の飲食店街を抜けたさらに奥に、
隣の区から越してきたばかりという、新しく出来た居酒屋を見つけた。
そのお店は、ガード下から追い出されたわけではないので、
当然ながら、ガード下臭のする客はいなかった。

 

若いご夫婦が営む小さなお店だが、
日本酒にも合うように作られたという創作洋食は、
ひと皿ごとにちょっとした驚きがあって、どれもおいしい。
中でも、印象に残ったのは、自家製コンビーフだった。

 

缶詰のイメージしかないコンビーフを、自家製で。
そんな興味から注文してみたら、コンビーフのイメージはそのままに、
つまみとして楽しめる一品料理に進化したものだった。
自家製に感心しながら味わううち、「だったら家庭でも?」と気付いたのだ。

 

自家製コンビーフ

 

牛肉(切り落としや牛丼用など脂身の多いものを推奨) 500g

 

塩 小さじ1
水 100cc
ローリエ 2枚

 

しょうゆ 大さじ1
砂糖 大さじ1
おろししょうが 少々
ナツメグパウダー 少々
オレガノ 少々
タイム 少々
マジョラム 少々
パプリカパウダー 少々
黒こしょう 少々

 

プレーンクラッカー お好みで

 

  1. フライパンに油を引かずに牛肉を炒め、塩・水・ローリエを入れてふたをして中火〜とろ火で1時間煮込む。
  2. しょうゆ以下の調味料を加え、ふたをせずに弱火で水気がなくなるまで煮詰める(30分くらい)。
  3. ローリエを取り除いてボウルに移し、ブレンダー(ハンドミキサー)に掛ける。
  4. ミニトレイに移し、ラップをして冷蔵庫でしばらく寝かせる。

 

基本的な味の組み立ては「牛肉のしぐれ煮or佃煮」で、
これをハーブで風味付けすれば、あの店の味にかなり近づけるのではないかと考えた。
参考にしたのは、代表的なコンビーフ缶メーカーのHPにある
「塩漬け肉を加工する」という製法情報のみ。

 

調味料以外の費用は牛肉代だけで、閉店時間間際の半額処分品だと、約1,000円。
1缶約100gで400円はするコンビーフが実質200円弱で、しかも完全無添加。
訪ねた店の料理を勝手に再現する「お土産レシピ」の中でも屈指の自己満足品となり、
あの街に負けないくらい浮き足だっている、今日この頃である。