第81の皿 多摩川園と三色そぼろ弁当

人は誰でも「ホーム遊園地」を持っている。
子どもの頃に家族に連れて行ってもらう定番の遊園地のことで、
とにかく住まいから近距離にあることが要件だ。

 

ホーム遊園地は、大きくなってから自力で行く
デートスポットとしてのそれとは違い、
おしゃれである必要もなく、乗り物も「子供だまし」で問題ない。
むしろ狭くて小規模の方が、値段も安く、経済的な負担が少ない。
人もあまり寄り付かないから混雑もせず、
連れて行く大人にとって望ましいのである。

 

そんな、さまざまな要素をすべて満たした
奇跡のような遊園地が東急東横線沿線に存在していた。
その遊園地の名は、「多摩川園」。

 

駅のすぐそばにあったため、最寄り駅は
「多摩川園前」と呼ばれていたが、
廃園して「多摩川園」となり、
やがて「園」すら剥奪され、駅名は今や「多摩川」。
沿線の黒歴史と言わんばかりの駅名強制ダイエットにより、
遊園地の名残は完全に消えてしまっている。

 

このように、駅名の歴史からは哀愁しか漂わないが、
レジャーランドなのに、開業時からどこか哀愁が漂っていた。
遊園地の華と言える存在のジェットコースターは、樽の形をした二人乗り。
お化け屋敷の中を走るゴーカート「スリラーカー」や、
ただ丘に登って降りてくるだけのリフトなど、
どの乗り物にも並ばずともすぐ乗れる、
チープでポップなラインナップだった。

 

行列が出来ないから、滞在時間も短い。
人気の遊園地のように、朝から晩まで遊ぶ人は皆無。
名物は、秋に開かれる菊人形展で、乗り物で勝負する気もなければ、
子どもや若い客のニーズにも応えていない迷走企画。
墓参りを思い起こさせる香りが一面に漂う晩秋の遊園地は、
レジャーランドらしからぬ彼岸のムードを醸しだしていた。

 

さて今回は、そんな行楽のお供として持っていった、
あのお弁当を作ってみた。

 

三色そぼろ丼

 

〈そぼろ〉
ひき肉 200g(鶏・豚・牛 お好みで)
しょうゆ 大さじ2
みりん 大さじ2
酒 大さじ2
砂糖 大さじ1
おろししょうが 小さじ1

 

〈炒り卵〉
卵 4個
塩 小さじ1/2
砂糖 小さじ1
酒 小さじ2

 

〈青物〉
いんげん or グリンピース 適宜

 

ごはん

 

  1. いんげんorグリンピースをゆでる。
  2. 油を引いたフライパンに、調味料を加えて溶いた卵を入れ、水分がなくなるまでかき混ぜる。
  3. フライパンでひき肉をじっくり炒め、調味料を和える。
  4. 炊き上がったごはんに1〜3を載せる。

 

昭和の刑事ドラマでは、犯人が逃げ込む場所として、多摩川園がよく登場した。
追い詰めらた容疑者が、観覧車をよじのぼっていたのはご愛嬌。
逃げ切れる訳がないのだから、刑事も下で待っていればいいのに、
一緒によじ登って追い掛けて、わざわざ高い場所で捕まえたシーンが印象的である。