第76の皿 鍵のある暮らしとコーンマヨトースト
鍵のある生活に、あこがれていた。
大学進学と同時に実家を出て、最初に住んだのは、
あばら屋に共同玄関、狭い廊下に並んだ4部屋のうちのひとつ。
追われる身でもないのに「潜伏」と呼ぶのがふさわしい、
絵に描いたような「四畳半下宿」である。
廊下との仕切りは、ドアではなくガラス戸だったから、
外出時は、戸の上部に取り付けたステンレスの「掛け金」に、
3ケタの数字を合わせて開ける「ダイヤル錠」を掛けるだけ。
昔ながらの集合住宅の郵便受けによく見かける組み合わせの鍵なのだが、
つまりは、手紙やはがきのプライバシーが守れる程度の備えで、
人間が不在の部屋を守っていたわけである。
もっとも、盗られるほどの金目の物は一切なく、
わざわざ鍵を掛けるのが恥ずかしくなるような生活レベル。
もし、間違って入ってしまった泥棒がいたら、
気の毒がって何か置いて帰ってくれそうな部屋だった。
今回は、まだ何も持っていなかったあの頃によく作った、
精一杯の贅沢メニューを。
コーンマヨトースト
食パン(6枚切り) 1枚
コーン(ホール缶) 適量
マヨネーズ 大さじ2
黒こしょう 少々
- マヨネーズを塗った食パンにコーンを載せ、トーストする。
- 黒こしょうを振り掛ける。
出世魚ではないが、鍵もまた、出世していくものらしい。
四畳半下宿を出て、初めて得た、アパートの鍵。
就職を機に移り住んだ、ワンルーム賃貸マンションの鍵。
新しい家族と同時に手に入れた、小さなファミリーマンションの鍵。
現在持っているのは、容易に複製できないディンプルキー。
少しずつ形状が進化していく鍵は、ささやかなステップアップの証でもある。
鍵があるということ。
それは、守りたい何かがあるということ。
改めてこの幸せをかみしめる、年明けである。