第72の皿 ユニットのような冷やし中華

具材をひと通り刻んで、冷やし中華が完成に近づく。
だが、何か足りない。
麺をゆで始める寸前に気が付いた。
ハムだ。
買っておいたハムを取り出すのを忘れていた。

 

慌ててハムを刻んで、これで具材が揃った。
きゅうり、卵、わかめ、もやし、ハム。
これが我が家の冷やし中華の定番の具である。

 

色も違う。味も違う。食感も違う。
まったく個性の異なる5つの具材を眺めていると、
アニメや特撮映画の戦隊ものを思い出す。
基本は赤・青・緑・黄・ピンクあたりだったか。

 

根っからの主人公気質で、情熱的な、赤。
光的存在の赤に対し、陰として対のポジションに立つ、クーリッシュな存在の、青。
善良で癒し系、近年では自然を愛するエコ野郎としてのキャラも負う、緑。
カレー好きという大食漢キャラを背負わせられる三枚目カラーの、黄。
男女雇用機会均等法の遵守をかろうじてアピールする、紅一点のピンク。
5人編成が多かったような気がするが、
キャラクターを色で表す手法は、画期的だったと思う。

 

冷やし中華(2人前)

 

生中華麺 2玉

 

卵 2個(薄焼きにして刻む)
きゅうり 1/2本(細切り)
わかめ 1つかみ(刻む)
ハム 50g(細切り)
もやし 1/4袋

 

熱湯 30cc
鶏ガラスープの素 小さじ2(熱湯で溶く)
顆粒の和風だし 5g(熱湯で溶く)
砂糖 大さじ1(熱湯で溶く)
黒酢 大さじ3
しょうゆ 大さじ2
酒 大さじ2
ごま油 小さじ1(お好みでラー油でも)
おろししょうが 小さじ1/2
白ごま 大さじ1
水 70cc(冷水)

 

  1. 鶏ガラスープの素、和風だし、砂糖を熱湯で溶いてから、他の調味料と冷水を混ぜ合わせ、冷蔵庫に入れておく。
  2. ボウルにあけた卵に片栗粉少々を振って泡立て器でよく混ぜ、熱したエッグパンに広げて、錦糸卵を作る。火が通ったら端を少し持ち上げて箸を横から差し入れて挟み、ひっくり返して裏面も火を通す。
  3. もやしをさっとゆで、引き上げて冷ましておく。
  4. 麺をゆでて引き上げ、氷水にくぐらせてからよく水気を切る。
  5. 麺を皿に盛ってたれを掛け、具材をトッピングする。

 

具材ひとつひとつの特性はおよそバラバラで、
5種類すべてをいっぺんに使った料理など考えられない。
だが、ひとたび冷たい麺の上に一斉に載せると、
最初から計算されたかのように見事に完成された
「冷やし中華」というユニットになるから不思議である。

 

そう言えば少し前に、戦隊もののようなカラーを持った
5人組のトップアイドルグループの去就が報じられた。
冷やし中華に置き換えて、彼らの「それから」に思いを馳せてみる。

 

汎用性の高いもやしは、あらゆる野菜炒めを取りまとめる存在となる。
孤立した感のある卵は、プレーンオムレツという道を飲み込む覚悟を決めた。
ハムはサンドイッチに活躍の場を求め、
わかめときゅうりは、元からの相性の良さを活かして、新ユニット・酢の物を結成。
それぞれの道で、それぞれが新たな味を切り開いた。

 

だが、5つの具材が同じステージに上がることは、もうない。
かくして、国民的に愛された冷やし中華は、永遠に味わうことができなくなった。