第47の皿 ある年の夏休みと、上海風焼きそば

8歳の夏休みの初日に、母が亡くなった。
海外出張先から急ぎ帰国して喪主を務めた父は、
任期をあと二月残しているため、すぐ現地に戻らねばならない。
まだ3歳の妹と、子ども二人だけが残された家には、
隣町に住んでいた父方の祖母が同居することになった。

 

母を送るまでの慌ただしい日々が落ち着いても、
夏休みはまだ始まったばかり。
一軒家に、老女と子ども二人。
あの年の夏は、とてつもなく長かった。

 

祖母が困ったのは、昼ごはんだった。
年配の人は、三食を「ごはんとおかず」で済ませることが多い。
だが、これまで核家族だったこの家では、昼は麺類が中心。
幼い孫たちは、これまで通りの食事を望んでいる。

 

袋入りのインスタント食品に馴染みのなかった祖母は、
蒸し麺を買って来ては、独自に味付けた焼きそばをよく作ってくれた。
麺をほぐし、野菜の切れ端とともに油で炒めるのだが、
味付けに使っていたのは、しょうゆだった。

 

作ってくれるのはありがたいが、これがまったくうまくない。
祖母が焼きそばを一緒に食べていた印象がないので、
もしかすると味見すら、していなかったのではないだろうか。

 

あるいは、焼きそばに興味がない祖母は、味見をした上でなおかつ
「こんなまずいものを、よく好んで食べるね」と思っていたのかもしれない。
実際には、この焼きそばが例外的にまずかっただけなのだが。
そんな調子なので、祖母が作る焼きそばがおいしくなることは、ついぞなかった。

 

おいしくなかった味の記憶に、エピソードの切なさも倍増である。
この思いを胸に、今回はシンプルな焼きそばを作ってみる。

 

上海風焼きそば(2〜3人前)

 

蒸し麺 3玉

 

干しえび 大さじ2
しいたけ 3枚
もやし 1袋
にら 1把

 

油 大さじ3
酒 大さじ1
鶏ガラスープの素 小さじ1
砂糖 小さじ1
オイスターソース 大さじ2
しょうゆ 小さじ1

 

  1. 耐熱皿にもやしを置き、それを包むようにほぐした蒸し麺を載せ、酒大さじ1(分量外)を振りかけてラップを掛けずに電子レンジ(500W)で3分加熱する。
  2. フライパンに油をたっぷり入れて熱し、軽く焦げ目が付くまで麺を焼いて、取り出しておく。
  3. 油を足し、干しえびとしいたけを炒め、もやしとにらを加える。全体にしんなりしたら取り出しておく。
  4. リップボウルで合わせておいた調味料を、フライパンに戻した麺に回し掛け、よく和える。麺に均一にソースがなじんだら3を戻し、混ぜ合わせる。

 

ポイントは、麺をレンジで下処理することと、
具を一度取り出して、麺だけにソースを和えること。
麺に均等に味が行き渡るため、一段上のおいしさが生まれる。

 

味付けがうまくできれば、おそらく具なしでも完食できる。
この焼きそば、祖母に食べさせてみたかった。