第44の皿 割烹着で再現!? わかめスープ

巷で噂の女性化学者が、記者会見を行った。
彼女が発見したという新型の万能細胞は、果たして存在するのか。
理系の素養はかけらもないので、世間が注目するほどの興味はなかったが、
「自分は細胞を200回以上再現している」というコメントは妙に気になった。

 

論文に書かれた方法では誰も再現できなかった、との批判への反論なのだが、
リアリティを超越したこの数字を聞いて疑いを濃くしたとか、そういう話ではない。
批判を我が身に置き換えたら、にわかに背筋が寒くなったのだ。

 

このコラムで書いているレシピは、読む人にちゃんと伝わっているのか。
自分がおいしいと思う味を、誰が作っても再現できるように書かれているのだろうか。

 

会見では「細かなコツをすべてクリアできれば第三者でも再現できる」との発言もあった。
しかし、だとしたら論文には、そのコツも書いておかねばならないだろう。

 

学術論文とは同じレベルでは論じられないのかもしれないが、料理のレシピにおいても、
そのメニューが独創的であればあるほど、クリアすべきいくつかのコツがあると思う。
逆説的に言えば、再現にいくつものコツが必要なのは、
その研究なりレシピなりが、かつてなく独創的である証だとは言えよう。

 

一方、特筆すべきコツを必要としないのは、普遍的メニューの証である。
今回は、ニュースを見るたびに食べたくなった、あのスープを”再現”してみる。

 

わかめスープ

 

わかめ 1つかみ(刻む)
長ねぎ 1/2本(小口切り)
白ごま 大さじ1
酒 大さじ1
鶏ガラスープの素 小さじ1
ごま油 少々
しょうゆ 大さじ1
白こしょう 少々
水 600cc

 

  1. 水で戻したわかめと長ねぎ、白ごまを鍋に入れ、ごま油で炒める。
  2. 水を注ぎ、酒と鶏ガラスープの素を入れて火にかける。
  3. 煮えてきたらしょうゆと白こしょうで味を調えてから器に盛り、ごま油をひとたらしする。

 

焼肉店でおなじみの、ごま油が香ばしい味わいのスープである。
この料理のインスタント製品を作っているメーカーが
話題の研究所の略称と同じ名前なので、ニュースのたびに思い出していたわけだが、
調べてみたら実は無関係ではないことを知った。

 

そのメーカーの母体は、戦前に存在した財団法人時代の同研究所であり、
ビタミンAの製造部門を引き継ぐ形で発足したというのだ。
個人的には、新型細胞の発見よりも驚かされた事実だった。