第42の皿 火気厳禁、ひじきの酢の物

先日、京都へ出かけた。
予定を立ててさまざまな神社仏閣を巡ったが、
一カ所だけ、たまたま通りかかったため、寄ることにしたお寺があった。
そのお寺は、知らぬ人がいないほど抜群の知名度を誇るのだが、
京都旅行でここを訪ねたという話をおよそ聞いたことがない。
その不思議なお寺の名は、本能寺である。

 

言うまでもなく、織田信長終焉の地で、
明智光秀に討たれた政変で知られる寺である。
勝手なイメージで、どこかの山奥にあるものだとばかり思っていたので、
街歩きのさなかに突然、本能寺が出現したのにはびっくりした。

 

小さなお寺で、名刹揃いの京都にあっては、ひたすら地味。
訪ねる客も少なく、ひっそりとしていて、観光名所の風情はほぼない。
どうしようか迷ったが、話の種になるかもと思い、500円を払って宝物館に入った。
結論としては、事実こうして話の種になるほど、非常に興味深いお寺だった。

 

その中で、特に面白かったのは、信長公が禁制を書き記した朱印状。
本能寺を定宿とするにあたって、寺と交わした約束状なのだが、
その中に、防火の意味合いから寺を取り囲むように
植えていた竹林の伐採を禁止する項目がある。
火に気を配るよう言い渡した当人が最終的に火を放ったのだから、
お寺としたらたまったものではない。

 

この本能寺、火に対する相性がとことん悪く、
合計5回も焼失の憂き目にあっている。
本能寺の変以外でも、延暦寺の焼き討ち、天明の大火、蛤御門の変など、
歴史上の大事件でことごとく燃やされてしまい、
その度に少しずつ場所を変えて再建を果たしている。

 

このため、現在ではお寺の石碑や看板などは、
本能寺の「能」の字のつくり(文字の右半分)を
「ヒヒ」ではなく、「去」にしている。
もちろん「火」を嫌ったのが由来で、去ってほしいとの願いを込めたものである。
さて、今回の料理も、それにちなんで火を使わないものを。

 

ひじきの酢の物

 

乾燥ひじき 25g(水で戻す)
きゅうり 1本(千切り)
ちくわ 少々(輪切り)
ちりめんじゃこ 少々
梅干し 大2〜3個(ちぎる)
大豆水煮 少々

 

すし酢 大さじ2
白すりごま 大さじ1

 

  1. 刻んだきゅうりに塩を振って10分置き、ペーパータオルに包んで水気を拭う。
  2. 水で戻したひじきとその他の具材を加え、すし酢を掛けて混ぜ合わせる。
  3. 器に盛り、白すりごまを振り掛ける。

 

旅行中、「おばんざい」が売りのカフェで出されたランチメニューの一皿である。
五目煮と思って食べたら酢の物だったという意外性と、
ひじきを酢の物に使ってもいいんだという発見が楽しかった。
クセになるおいしさで、常備菜としてピッタリ。
本能寺には悪いが、マイブームに火が付きそうである。