第41の皿 合法的においしいチキンクリームシチュー

好物は多々あれど、圧倒的な幸福感が得られる食べ物は、そうはない。
この点で他の追随を許さないのが、チキンクリームシチューである。

 

窓の外で木枯らしが吹き荒れる、冬の夜。
たいがいの温かい食べ物はおいしく思えるシチュエーションだが、
クリームシチューだと「生きててよかった」と
人生の喜びが語られるレベルにまで昇華する。
最近よく「多幸感に包まれる」と言った表現を見かけるが、
シチューを食べた時の気分にピッタリ当てはまると思い、
食卓でこの言葉をよく口にしていた。

 

ところが、この表現は適切でなかったと最近知った。
問題は、「多幸」という言葉が持つ意味にある。
パソコンで使っている入力支援ソフトの語彙解説によると、一義的な意味は

 

(1)非常に幸福なこと。よいことが多くあること。また、そのさま。多福。

 

伝えたかったのは、まさにこの気分で、まったく異存はない。
だが、これに続く2番目の意味が問題だった。

 

(2)【医】本人や周囲の客観的状況にそぐわず、内容のない爽快な気分の状態。
老年性認知症や薬物中毒、神経疾患などに見られる。

 

「多幸感」と言う場合、もっぱらこちらの医学用語を指すようなのだ。
特に、薬物使用などで人工的に得られる、
非常に強い幸福感を指す言葉らしい。
つまり、「多幸感に包まれる味」という表現だと、
まるで非合法な材料に頼ったかのようになってしまうわけだ。

 

そういえば、このシチュー、一般とはかなり異なる材料で作られている。
市販のルーはもちろん、小麦粉もバターも牛乳も、一切使用していない。
となると、やっぱり「非合法」がもたらす「多幸感」だったのか?
改めてレシピを検証しよう。

 

チキンクリームシチュー(10皿分)

 

鶏もも肉 500g(一口大に切る)
じゃがいも 4個(一口大に切る)
にんじん 2本(乱切り)
たまねぎ 3個(薄切り)
コーン缶(ホール) 大1個
ブラウンマッシュルーム 1パック(スライス)

 

〈ベシャメルソース〉
オリーブオイル 大さじ6
米粉 大さじ10(薄力粉タイプ)
成分無調整豆乳 800cc(耐熱計量カップに入れ、レンジで温める)
塩 小さじ2

 

水 1200cc
コンソメの素 3個(刻んでおく)
ローリエ 4枚
白こしょう 少々
ドライパセリ 少々

 

  1. 鍋にオリーブオイル(分量外)を引き、鶏肉を皮目から入れ、焼き色を付ける。
  2. たまねぎ、にんじん、じゃがいも、マッシュルームの順に炒めて、水とローリエを入れ、ふたをして強火にかけ、沸騰したらとろ火にして1時間煮る。
  3. オリーブオイルを引いたフライパンに米粉を少しずつ加えて、まとまってとろみが出るまで弱火で炒める。温めておいた豆乳を少しずつ加えて練り、まとまったら塩、コンソメの素で味を調える。
  4. 鍋のあくをすくい、3を入れてとろ火で1時間ほど煮込む。火を止める直前にコーンと白こしょうを加え少し煮る。器に盛りドライパセリを振り掛ける。

 

オリーブオイル・米粉・豆乳は、バター・小麦粉・牛乳の互換なので、
もちろん後者を使っても同じようなものが出来る。
前者は植物性で後者は動物性が中心だが、
米と豆の力なのか、コクはむしろ前者の方が勝っている気さえする。

 

味としては、「お代わり」の列に並んだ、学校給食のシチューそのもの。
もっと食べたいと願ったあの味が、おなかいっぱいになるまで楽しめる。
ナチュラルハイを呼ぶ、合法的なクリームシチュー。
表現を改め、「幸福感あふれる」と言い換えておこう。