第29の皿 全員野球で、おでん

冬の楽しみのひとつに、おでんがある。
こんにゃく、しらたき、大根、さつま揚げ、がんもどき・・・。
鍋に入った時は、単なる寄せ集めだったメンバーが、
火に掛けてから数十分、突然「おでん」になる瞬間がやってくる。
部屋じゅうが「今夜おでんを食べる家」の匂いに包まれるのだ。

 

この瞬間を迎えると、いつも「高校野球部の監督」のような気分になる。
入部したばかりの頃、真っ白なユニフォームに身を包んだ、頼りない1年生たち。
あちらこちらの中学校からやって来た小さな存在が、
いつの間にか立派なチームに育ったのだ。
褐色に色づいた具材は、たくましく日焼けした3年生部員の姿そのものだ。
「おまえら、本当にいいチームになったな」と、
(口の中に)去りゆく部員たちひとりひとりに声を掛けたい。

 

こんなことを考えるのも、あることに気づいたからだ。
おでんチームには、絶対的なエースや頼れる4番打者のような、
突出した存在がいない。

 

他の鍋チームには、皆エースや4番打者がいる。
すき焼きチームには牛肉、水炊きチームなら鶏肉、
かにすきチームならもちろん、かに。
また、寄せ鍋は、4番がいないというより、4番ばかりがいるチーム。
他のチームからエースや4番をかき集めて強いチームを作った印象がある。

 

一方、味を出すエースのいないおでんチームは、
小粒の選手を鍛え抜くことでチーム力を底上げするイメージ。
メンバーが一丸となって、味を出していくのだ。

 

おでん(4人前)

 

大根 1/2本(2cm厚の輪切り)
こんにゃく 1枚
焼き豆腐 小2丁
はんぺん 2枚(放射状に4つ切り)
ゆで卵 4個
結びしらたき 4個
さつま揚げ お好みのものを
がんもどき 4個

 

〈汁〉
だし用昆布 20×10cm
塩 少々
酒 200cc
水 1500cc
めんつゆの素(3倍希釈用) 大さじ6
和風だしの素 15g

 

  1. 鍋に水を張り、卵をゆでる。別の鍋でこんにゃく、しらたきをゆでる。
  2. 油を引いたフライパンに大根を並べ、軽く塩を振って焼き色が付くまで焼く。
  3. 鍋に酒を入れてアルコール分を飛ばす。水、だし昆布、調味料を入れて弱火で煮て、沸騰したら卵・はんぺん以外の具材を入れてふたをして弱火〜とろ火で煮込み、香りが変わってきたら卵とはんぺんを入れ、とろ火で火を通す。

 

通常のおでんと異なるところは、大根を焼いてから煮ることだろうか。
地味なおでんチームだが、4番打者には、この大根を指名する。
そして、エースは卵である。