第19の皿 おかわりはセルフで、肉じゃがカレー

さる会合で訪れたその店は、ひっそりとした住宅地の一角にあった。
地下鉄が開通するまで「陸の孤島」と呼ばれ続けたエリアで、
その名を返上してもなお、当時のイメージを色濃く残している。
こうした街にある人気店はたいがい「隠れ家」と呼ばれるが、
このお店もまさにそんな風情を漂わせていた。

 

和食を中心とした居酒屋なのだが、運ばれて来るどの皿も素晴らしい。
刺し盛り、肉じゃが、ラタトゥイユ、茶碗蒸しなど、奇をてらったメニューはないが、
どの皿もていねいに作られていて、味がいい。
やがて、コース料理を締めくくる、ごはんを選ぶ時間となった。

 

卵掛けごはん、麦とろ、お茶漬け、肉じゃがカレー。
このお店のことだから、どれもうまいに違いないだろうが、ひとつしか選べない。
となると、すでに食べている肉じゃがは、まず外すべきか・・・。
そう考えていると、見透かしたかのようにお店の人が、
「先ほどお出しした肉じゃがとは、味がまったく違います」とアドバイス。
そう言われたら、違いを確認せずにはいられないのが人情というものだ。

 

こうして、めでたくチョイスされた肉じゃがカレーは、
通常の半分くらいの大きさのご飯茶碗に盛られていた。
味は、和風ドライカレーの趣で、煮物ならではの甘みがたまらなくやさしい。
具がすべて溶け込んでペースト状になっており、料理の肉じゃがとは確かに異なっている。

 

味のおいしさと量の少なさに、ついおかわりが欲しくなるが、
コース料理のシメのごはんで所望するわけにもいかない。
あっという間に空になったお碗を見つめながら、味の記憶を心に詰め込む。
これをおみやげとして持ち帰り、再現して「セルフおかわり」を果たすのだ。

 

肉じゃがカレー(ごはん茶碗2膳分)

 

肉じゃが(市販の惣菜) 1パック
たまねぎ 1/4個(みじん切り)

 

オリーブオイル 大さじ1
薄力粉 大さじ1
片栗粉 小さじ1/2
カレー粉 小さじ1

 

ごはん 2膳分

 

ドライパセリ 少々

 

  1. 肉じゃがをフードプロセッサー低速で粗くミンチ、もしくはマッシャーで潰す。
  2. フライパンにオリーブオイルを引き、たまねぎをよく炒める。
  3. 薄力粉、片栗粉、カレー粉を加え、サラサラになるまでじっくり炒める。
  4. 1を入れ、とろ火で10分加熱する。
  5. お碗に盛ったごはんに載せ、お好みでドライパセリを振り掛ける。

 

我が家では、市販の惣菜ではなく、わざわざ肉じゃがを作って一部を取り分けた。
食べてみると、本家には及ばずとも、家庭料理には十分すぎる味に仕上がっていた。
こうしてセルフおかわりを実現したわけだが、この味はやみつきになる。
結局、残りの肉じゃがは、すべてカレーに化けてしまった。