第11の皿 今年も梅仕事、梅酒
ひと昔まえ、どこの家庭にも、手造りの梅酒があった。
台所の流し台の下あたり、フライパンや鍋の横に、
まるでキッチンの標準装備であるかのように、置かれていたはずだ。
我が家にも、かつて梅酒があった。
いつ頃造ったのか、もらいものだったのか。
家族の誰も酒を飲まないものだから、ずっとずっと眠っていた。
そんな調子だったので、梅酒に関する思い出は、一切ない。
家族に隠れて飲んだら酔っ払ってひと騒動起こした10歳の夏、
みたいなエピソードがあれば、このコラム的にはよかったのだが。
家の梅酒は、何回か引越しをするうちに、いつの間にか消えていた。
もし大切に取っておいたら、今頃は何年物になっていたのか。
誰も手を付けなかったあの梅酒が、とても貴重なものに思えてくる。
昨年、梅酒を初めて造った。
ホワイトリカーに漬け、氷砂糖が溶けるまで毎日ビンを揺すって、丹精込めて育てたものである。
梅酒(一升分)
青梅 1kg(南高梅でも可)
氷砂糖 500g(酸っぱめ)〜1kg超(かなり甘め)
ホワイトリカー(アルコール度35度) 1800ml
密封できるガラスビン 4リットル用
- 梅を半日水に浸けたのち、水気を拭ってから一昼夜かけて完全に乾かす。
- つまようじでヘタを取った梅と氷砂糖を、熱湯消毒したビンに交互に入れる。
- ホワイトリカーを注ぎ込み、密封して冷暗所で保存する。
3ヶ月過ぎれば飲めるようだが、熟成の目安である1年寝かせてから解禁した。
梅酒を別の容器に移し、梅の実は取り出してジャムに加工する。
空いたビンには、新しい梅とリカーを入れ、翌年の梅酒を造るのだ。
この一連の作業は、「梅仕事」と呼ばれる。
毎年6月の梅仕事は、我が家の初夏の風物詩となりつつある。
ひとつだけ残念なのは、造った梅酒が、
年代物に育つ前に消えてしまうことである。