星くずの日々

弥生、3月。今年度も最後の1か月になりました。
2月には、北陸で記録的な豪雪、それに比べれば申し訳ないほどですが、
都内でも最強寒波などの報道も続きました。
冬は寒波、夏は猛暑、合間に地震や噴火など、
近年とかくこの世は住みにくい、という日々が続いています。

 

そんな寒さ続きの中、困ったことに我が家の給湯器が寿命を迎えました。
ここ2、3年ずっと調子が悪く、だましだまし使っていたのに、
とうとう風呂のお湯を張ろうとしても、すぐ止まってしまうようになったので、
買い替えることになりました。
業者を呼んで見積もりを出してもらったら、
いい芝居やライブに25回から30回ぐらい行けるほどの金額が提示されました。
今年は自粛しなければならないかもしれません。

 

芝居のチケットは高いので、とある休日に新宿まで映画を観に出かけました。
都内では新宿でしか上映していないその映画は、「星くず兄弟の新たな伝説」。
今から約30年前、1985年に「星くず兄弟の伝説」として公開された映画の
続編です。
「ブレードランナー2049」みたいなもんです。多分、違うと思いますが。
監督はあの手塚治虫の長男で、ヴィジュアリストという肩書きの手塚眞。
そもそもこの映画はミュージシャンの近田春夫がリリースした
「星くず兄弟の伝説」というオリジナルアルバムに触発された手塚眞が
制作した、いわゆるカルトムービーです。最初に音楽があったのです。
当時大学生だったわたしは、近田春夫が好きで、このアルバムを聴き、
その流れでこの映画を観に出かけました。もう覚えていませんが、
たぶん池袋か新宿の映画館で観たはずです。
ミュージシャンを目指す二人組の“スターダストブラザーズ”が
紆余曲折を経て、なんかそれっぽい結末を迎える…。
説明にもなっていませんが、ざっくり言うとこんな話です。
カルト、と言われた映画にはっきりとしたストーリーも内容もありません。
低予算でつくられたとわかるチープだけど味のある映像、
マニアだけがわかる知る人ぞ知る出演者、
監督やスタッフが平気で画面に出てくる内輪受けのノリ、
そんな遊びが随所にちりばめられたこの映画を、
当時のわたしは受け入れることができませんでした。
人に聞かれると「おもしろかった」と答えてはいましたが、
実は何がいいのかさっぱりわからなかったのです。
そして平成も30年になって、この続編「星くず兄弟の新たな伝説」を
映画館で観て、当時とまったく同じ感想を持ちました。
「おもしろくない、何がなんだかわからない」、と。
わたし自身の感性はまったく変わっていませんでした。

 

しかし、それが80年代の気分だったことは強烈に思い出しました。
松田聖子や田原俊彦のような正統派のアイドルがもてはやされる一方、
奇抜な衣装やメイク、わけのわからない歌詞やパフォーマンスの
“インディーズ”と呼ばれるアーティストたちが続々と世にでてきた当時。
その中に「有頂天」というバンドがあり、
当時“ケラ”と名乗っていたボーカルが、
今回の「星くず兄弟の新たな伝説」の脚本担当として、
手塚眞とともに名を連ねていました。

 

80年代にインディーズレーベルのナゴムレコードを主宰し、
「有頂天」の“ケラ”だったアーティストは、
その後“ケラリーノ・サンドロヴィッチ”と名前を変え、劇団を率いて活躍。
個人的にはいま一番脂が乗っている演劇人のひとりだと思います。
彼の手がけた舞台は何度も観ていて、
一昨年の「キネマの恋人」や昨年の「陥没」という作品は
素晴らしいものでした。

 

その彼が1990年、有頂天時代に出したアルバムに
「カラフルメリィが降った街」という1枚があります。
YouTubeにはそのミュージックビデオがあるので、
興味がある方はご覧になってください。
その映像の中に流れている空気が、まさに「星くず兄弟の伝説」と同じです。

 

およそ30年の時を越えて、
「星くず兄弟の伝説」は「星くず兄弟の新たな伝説」になり、
ケラはケラリーノ・サンドロヴィッチになりました。
どちらがいいとか悪いとかの話ではなく、
20代の頃に影響を受け、いまの自分を構成している要素の一つである
人やモノと現在になっても出会うことができるのは喜ばしいことで、
そんな時、まあ年をとるのも悪くないと思います。

 

給湯器が経年劣化しても、修理をすれば直るように、
わたしも劣化を恐れず生きていこうと思います。
しかし年々、修理代が高くなるんですが。


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