探す日々

「探しものは何ですか?」と、
ギターをかき鳴らしながら井上陽水が近づいてきた時のために
用意しているこたえはありますか。
新橋駅の改札口でかばんの中に手を突っ込んでがさがさやっている時なら、
「パスモです」とか「ケータイです」とか。
幕末にタイムスリップした南方仁なら、
「ペニシリンです」とか「ホスタミンです」とか、
歴史を変えてしまうような立派なことをこたえるのでしょうか。

 

未来とか方向性とか、探しようがないのに模索してしまうものもありますが、
自分にとっての身近な探しものは、書き味のよいペン、です。
文房具屋や雑貨屋に入ると、筆記用具売り場へ。
色々と試した結果、
筆圧が強いので、ボールペンとマジックの間ぐらいの少し柔らかめの書き心地、
ペン先は細すぎず、太すぎずの0.4㎜ぐらいがベスト。

 

その条件の範囲内でさまざまなメーカーのペンを手にとって、
試し書き用の長い紙に線をぐるぐる書いてみたり、
あいうえお、あいうえお、と繰り返したり。
自分の名前を書いて、その上からぐりぐりと塗りつぶしてみたりも。
なかなかしっくりくる1本は見つけられないのですが、
運よく出会った時は、必ず赤と黒を1本ずつ買って納得しています。

 

聞くところによると試し書きに一番ふさわしい文字は「永」だそうです。
「永字八法」といって、点とか、はねとか、はらいとか、
毛筆の場合に必要な八つの技法がすべて入っている文字なのだとか。
これを知ってからは、通ぶって、
永遠とか永久とか、意味ありげな文字を書いてみたりもします。

 

それにしても手書きで文字を書く機会が格段に減っているので、
字がどんどん下手になる。下手、というか、書き慣れてない感じ、というか。
何かに載っていた「遅筆堂」井上ひさしの戯曲の原稿。
推敲した赤字までびっしり入っていた、
達筆、というのともまた違う、オーラのある文字。
せめて文字ぐらいは、ああいうのを目指したい。文字だけとしても怖れ多いですが。

 

ラフとかアイディアスケッチをさらさらっと描いただけでも、
おおっ!と人をうならすことのできるデザイナーがいるように、
メモ書きひとつでも味のある文字で書きたい。
そのためにも少しでもうまく見えるような筆記用具をいつも探しているのです。
わかっています、本当に大事なのは内容です。

 

ちなみに斉藤由貴がポニーテールを揺らしながら
「探しものは何ですか?」訊ねてきた時は
「うまいお好み焼き屋」とこたえるつもりです。
意味がよくわからない人はまわりのアラフォーに聞いてください。