師走の日々

久住昌之、という人を知ってますか。
最近なら深夜ドラマ化されて人気のコミック
「孤独のグルメ」や「花のズボラ飯」の原作者として自らドラマにも出演していたり、
またエッセイストだったり、ミュージシャンだったり、
いろいろな肩書をもっている才人なんですが、
その目のつけどころがすべてちょっとバカバカしい方を向いているのが好きで、
学生の頃から折に触れ、作品に接していました。
私のオススメは
「近くへ行きたい。秘境としての近所 舞台は”江ぐち”というラーメン屋」
というエッセイと泉昌之名義の「ダンドリくん」です。

 

ちょうど5年前の12月のはじめ頃、彼が調布の小さなレストランバーで
弾き語りライブをするというので、
家から近いこともあって主人と出かけてみました。
作品は読んでいても、生身の彼に接するのは初めてだし、
会場になっていた店に入ってみたら思ったより狭かったせいもあって、
始まる前から何となく緊張していたのをよく覚えています。

 

その店でMに再会しました。
同じようにご主人と来ていたMは大学時代の同級生。
同じクラスで出会い意気投合し、
同じような一般教養の授業を選択し、時には同じように単位を落とし、
再履修を受けたこともありました。
昼は学食で待ち合わせ、夜は飲み歩き、お互いの家に泊り、
いっしょにバイトをさがし、時には同じ人を好きになり…。
お互い地方から上京してひとり暮らしだったこともあって、
十代の終わりから二十代のはじめの頃に、
本当に濃密な日々を過ごしていた友人でした。

 

そんな友人と十数年ぶりに再会したわけですから、
ライブもそこそこに、語り、飲み、食べ、と、盛り上がらないはずがありません。
しかもその日が初対面のうちの主人とMのご主人は、
名古屋の同じ小学校の出身だったことがわかったり、
さらにM夫妻は久住氏とちょっとした知り合いだったこともあり、
調子に乗って著書にサインをもらったり、彼とも話しこんだり。
いくつもの偶然が重なって、何だか本当に夢のような幻のような
ふわふわとした夜を過ごしました。
当然「また飲もう、また会おう」と約束して別れました。
もう電車もなくなっていたけれど、
帰りのタクシーの中で、ちょっと早いクリスマスプレゼントだったのかも、
と柄にもなくロマンチックな気分になったこともよく覚えています。

 

でもそんな約束をしたって、何か月も何年も会わないことなんてよくある話で。
社会に出てから、他人との適当な付き合い方にも慣れてしまっていました。
Mから着信があったのは、それから半年経った5月の夜でした。
飲みの誘いだったらこんな時間から出かけるのは面倒だなあ、
なんて呑気に電話にでたら男性の声で「今朝Mが亡くなりました」と。
ご主人でした。耳を疑いました。
年が明けてから体調を崩し、病院に行ったら癌がわかったという話でした。
それからはあっという間に進行し、Mの携帯に私の名前があったので連絡をした、
他の知っている人にも知らせてほしいということでした。

 

正直その後のことはあまりよく覚えていなくて、
仲のよかった4人の女友達になんとか連絡して、
お通夜にもお葬式にも出席しました。
みんなと会うのも12月にMに会ったのと同じぐらい久しぶりで、
本当に悲しい同窓会でもありました。

 

あの時、久住昌之のライブに行こうと思い立たなかったら、
ご主人からすぐに電話をもらうこともなく、
Mのお葬式には出られなかったでしょう。
師走になると、あのレストランバーの夜を思い出します。
同い年の友人の死を思います。5月の命日よりも色濃く思います。
驚き、悲しかったことはもちろんですが、
事故でも自死でもなく、人は病に倒れるのだと、深く刻み込まれたこと。
12月になると思い出します。
いろいろ面倒がったり先延ばしにしたりしないで、
会える人には会っておいたほうがいいです。
平成中村座にも行っておけばよかったです。