夏休みの日々

秋きぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる、歌丸です。
嘘です。古今和歌集です。
そもそもは立秋の頃に詠まれたらしいこの歌、
21世紀にはそれから一か月以上も経たないと実感が伴わないようになりました。
それでもやっと夏と冬の間の、一年で一番好きなシーズンがやってきました。
冷房も暖房もいらない、この快適さができるだけ長く続きますように。

 

夏と秋がいつ入れ替わろうかと様子を伺いあっている9月の終わりに、
休みをとりました。
何ということはない、ただ実家に帰るだけですが、
もう何年か前から車で旅をしながら、というのが恒例になっていて
行き当たりばったりに近いルーズな旅程を楽しんでいます。
都内から瀬戸内海に面した西の町までには、
名古屋、京都、大阪、神戸、といった大都市はもちろん
さまざまな道や景色や食べものがあって立ち寄る場所には事欠きません。

 

そして本当に今さらながらに感じたのは、スマホの便利さ。
予約していなくても宿はさがせる、食べもの屋も見つかる、営業時間や休業日もわかる、
地図も渋滞情報もSNSも、おまけにシガーライターで充電まで。
去年の夏はまだガラケーだったので、一気にIT革命(笑)です。
これからガイドブックの出版社はどうなっていくんでしょうか、余計なお世話ですが。

 

淡路島に一泊してから鳴門のうず潮を横目に四国に上陸し、徳島ラーメンを食べ、
高松で会社のOBに会ってまた一泊し、
讃岐でうどんをすすり、瀬戸大橋を渡って、実家にたどり着きました。
そして翌日何十年ぶりかで中学・高校の文化祭に行き、
在学時の校長先生やシスターに会ってその記憶力に驚いたり、
憧れていた英語の先生とお互いの変わり果てた姿について嘆きあったり、
卒業以来一度も会っていなかった同級生に遭遇したり、
もっと勝手に恋したり、ラジバンダリ、すっかり思い出酔いです。
車にはどんなに長時間乗っていても酔わないのに。

 

過去をたどること以外にも、この旅にはミッションがありました。
ふとした幸運で手に入れたiPadを
一人で暮らす後期高齢者の父の許に置いてくること、です。
わたし自身には何の知識もスキルもないので、
同行者がWi-Fiの設定をし、無事に使用できたときには感動すら。
一通りのことを伝えたらすぐにいろいろと操作しはじめ、
「これがアップルの言う直観的ってことなのか」と実感。
You Tubeで“フランク永井”を検索して、
聞いたことのないマイナーな曲を口ずさんでいたのには驚きました。
父の歌声を聞いたのは片手で余るぐらいの回数しかないのに…。
歌謡曲好き、You Tube 好きはDNAだとも思いました。
往復2,000キロ、ガソリンを入れまくった甲斐がありました。

 

そして休みも終わり、東京に戻ってきたら、
実家からいつもより頻繁に電話がかかってくるようになりました。
父がテレビ電話と呼んでいる、“Face Time”でです。
この前は画面に隣の家の小学生まで映っていました。
父がドヤ顔でテレビ電話について説明していました。
こんなところにもIT革命です。