卒業の日々

新宿、渋谷、新橋、
3月の後半から4月のはじめ、通勤時間帯のターミナル駅には、
さまざまな年代の若者があふれます。
ホームで若い母親に手をひかれて、電車の到着を待ちわびる幼児。
ワーワーと少しテンション高めにしゃべっているのは、親の付き添いなしに、
地元の駅から冒険するように出かけてきた、小学生や中学生の集団。
そして年々きらきらと華やかになり、コスプレ感の増す袴姿の女子大生など。
毎年この時期に、平日はあまり駅では見かけない子どもたちを見ると、
ああ世間は春休みなんだなあ、
また新しい年度が始まるなあ、と思います。

 

クラス替えや卒業がある、“春はお別れの季節です”。
卒業について歌った歌はたくさんあって、
この時期はそれだけで特集が組まれたりも。
斉藤由貴や菊池桃子や尾崎豊、
わたしの世代では文字通り「卒業」というタイトルの同名異曲がありました。
荒井由実や松田聖子にも同じテーマの名曲が数々。
でも毎年何となく思い出すのは、
前述の“春はお別れの季節です”という歌い出しの
「じゃあね」というおニャン子クラブの曲。
あまり重たいメッセージもない、さっぱりとしたいい曲です。
ググったらほぼ30年前の1986年の曲でした。
作詞はあの秋元康です。

 

先日、日曜の夜の、これを見ていると明日からまた会社か、と切なくなる
大人のためのサザエさん「ヨルタモリ」に秋元康が出ていました。
当時のおニャン子クラブから現在のAKB TRIBEへ、
時代とともに扱うコンテンツが移り変わっても、
なぜか本人だけはあの頃とほとんど変わってないずんぐりとした体型で、
ジャケットにメガネ姿のまま。
その時空を超えた風貌にはちょっとした驚きがありました。
タレント側には、時には卒業という名の、終わりもあったりしますが、
ハードの方はゆるがない。
まさにコンテンツビジネスの基本ですね、違いますか。

 

彼にはどうしても、うまくやりやがって感がつきまといますが、
番組内でのタモリとの電車にまつわる含蓄のあるトーク、
宮沢りえが人の話をさえぎって自分語りを初めても、
落とさないどころかその話をひろげる懐の深さ。
長年に渡る活躍の奥義を垣間見たようで、
わたしの中の秋元康観が変わりました。
変わったところでどうなるものでもないですが。

 

今年も同僚が何人か、この時期に会社を卒業します。
そしてまた何人かが、新しく入学してきます。
会社は学校じゃありませんから、
本当は卒業や入学、ということばはふさわしくないのでしょう。
でも、送別会の2次会にカラオケに行くことがあったら、
はなむけに「じゃあね」を歌いましょうか。
“じゃあね じゃあね だめよ泣いたりしちゃ
ああ いつまでも私達は 振り向けばほら友達”。
何だか、自分だけがいつまでも留年しているような気もします。