ライブの日々

その昔、それはまだわたしが高校生の頃のことでした。
放課後の教室で、
ある女友達が「これ、ぶちえーけー聴いてみー」と言って、
厳重に梱包された30㎝四方の薄い板のようなものを貸してくれました。
標準語で言うと、“とてもよいのでぜひ聴いてみなさい”と言うことばとともに
受け取ったのは、LPレコードで、その頃発売間もなかった
RCサクセションの「RHAPSODY」というライブアルバムでした。

 

レコードに針を落とすと、
溜まりに溜まったエネルギーを放出させるような勢いのある演奏に、
それまで耳にしたことのない独特のボーカルがからみつき、
音しか聴こえないのにその場所にいたすべての人の表情が浮かぶようで、
ひどく興奮したことをよく覚えています。
地方の高校生だったわたしが忌野清志郎という人にハマるのに、
時間はかかりませんでした。
なんとかズじゃない、RCサクセションというバンド名もとても新鮮に思えた。
単純ですが。

 

それからはレコードを貸してくれた友達と、
まだブレイク前夜のRCを追っかけました。
地元のアマチュアバンドコンテストのゲストに来ると聞けば、
徹夜で並んでチケットを取り、新幹線の駅まで見送りに行き、
大学に入って東京に出てきてからも、あこがれだった武道館へ、
西武球場へ、横浜スタジアムへ。

 

わたしの大学生活とRCの全盛期はほぼリンクしていて、
もう語り始めればキリがない。
昨日何を食べたか覚えていないのに、昔のことばかり話す、
面倒な年寄りになります。
しかし、全盛期があれば、そうでない時期もあるもので、
RCが活動休止した頃は、わたし自身ももう学生ではなく社会人になっていました。
仕事をしたり、飲酒をしたり、恋愛をしたりと忙しく、
CDやビデオの中の見知らぬバンドマンを追いかけるより、
自分のまわりのさまざまな現実に
追い越されないようにすることの方が大切になっていました。
RCに限らず、ライブやコンサート(同じようで違うと思います)に
足を運ぶ回数もめっきり少なくなっていました。

 

しかしそれでも、バンド名義でもソロ活動でも、
清志郎の話題を目にするたび、偉そうですが
「わたしの青春が、元気でがんばってていいなあ」と
思っていたものでした。
そしてわたしが本当に後悔したのは、彼が亡くなってからです。
最初に病に倒れた後に回復し、
2008年に武道館で行なわれた「忌野清志郎 完全復活祭」に
行かなかったことを本当に後悔しました。今でもしています。

 

それからです。
わたしがまたライブ会場や劇場に、
前にも増して積極的に通うようになったのは。
その理由は、自分の好きな演者にいつ何があるかわからない、
何なら自分にも何があるかわからない、からです。
歌舞伎役者やミュージシャンやタレントや、
さまざまなジャンルの有名人の訃報を目にします。
だからこそ、行けるもの少しでも興味があるものには無理してでも行っとけ、です。
幸い首都圏に住んでいれば、毎日どこかで何かの公演が行われています。
YouTubeで知った気になるのもいいけれど、
何かをライブで、現場で、
観る経験は得難いものだと思います。行っときましょう。しつこいようですが。

 

わたしにとってのRCや、清志郎に相当するものが、
レベッカだったという人もいます。
20年ぶりの再結成おめでとうございます。うらやましいです。
メンバーが元気で再結成ライブがあって。
チケットはアラフォーたちの争奪戦になるでしょうが、
何としても足を運ぶべきです。再結成ビジネスは中高年のためにあります。

 

この5月2日は清志郎の命日で、七回忌でした。享年58。
わたしも、あの時レコードを貸してくれた同級生も、
いつか清志郎の年齢を追い越してしまうのでしょう。
彼女とは今でも実家に帰ると会う、長い友達です。
今でも時々清志郎の話をすることがあります。