花粉症にはならない回

サッチャーが亡くなりました。

世界の教科書、もっとも混迷をきわめる現代史で、異様な存在感を見せていた鉄の女が・・・。
現代史のモノクロの記録映像に繰り返し出てきた、
その人物がまだご存命だったことに軽く衝撃を受けつつ、
悲報を知りました。

 

天国にはものすごい数の世界史的著名人が集合していることになり、
天国史を早くだれか、ドストエフスキーでも、プルーストでも執筆しないと、
非常にもったいないことになるのではないかと思っています。
いつか召された暁には、書いてみたいですね、天国史。

 

話は変わりますが、わたしは、花粉症じゃないんです。
はい。それだけです。

 

今年も桜は満開でしたね。春の嵐でもう葉桜になってしまいましたが。
わたしもぶらぶらとお花見をしました。
あの狂乱とも、狂宴とも思える人々の高揚した雰囲気を見ていると、
満開の桜には、人を惑わす妖気があるように思えてなりません。

 

坂口安吾の『桜の森の満開の下』も、そんなお話でした。
春になると、ぜったいにこの小説を思い出します。
最後の場面がとても静謐で、儚く、背筋がぞっとするほど美しいので、
ぜひ読んでみてくださいね。

 

春は、別れの、そして出会いの季節。
かく言うわたしも、大勢の、本当に大勢の諭吉(紙幣)と別れを告げています。
みんな・・・どうして黙って出て行ってしまうんだ!!!!!
新しい諭吉との出会いは・・・まだ遠そうです。

 

高校生から大学生へ変わるときの別れが、一番さびしかった記憶があります。
慣れ親しんだ教室、先生、そして友達。
それぞれの進路が決まり、もうまったく別々の道を歩いていくんだなと、
決定的な別れなんだなと、どこか甘い痛みを抱えながら春を過ごしていました。

 

でも、大事なことはそんなに覚えていないのです。
黒板にたくさんの色のチョークで、「忘れない」「ありがとう」など
青春真っ盛りのメッセージを描いたのは中学生だったか。
それとも高校三年生だったか。
今、戻りたいかと聞かれると・・・戻りたくない気がします。
もう繰り返せない、取り戻せないことが、愛おしいのだとわかるからです。

 

わたしの好きな宝塚にも、「別れ」があります。
タカラジェンヌが宝塚を卒業する、退団。
毎公演必ずいるわけではないですが、多い時には10名弱やめてしまうこともあります。
その公演で退団してしまう退団者の方を見送るのは、やはりさびしいもの。

 

ファンにとって、宝塚は、
「あなたを愛している」「わたしもあなたを愛している」
という愛を交換し合う場です。

 

退団は、その交換が終わってしまうということ。
愛を受け取り、また愛を送っていた相手がいなくなってしまうのは、
とても、さびしいものなのです。

 

宝塚ではでも、別れ方としては「円満」かもしれません。
別れは相手(ご贔屓)から告げられますが、
ファンはご贔屓が卒業するその日まで、精一杯、諭吉にがんばってもらい、
ご贔屓の姿をたくさん目と心に焼き付けて、お別れをします。
手切れ金という言葉が一瞬浮かび、円満でもないような気がしましたが、
ご贔屓のためならお金だって時間だって惜しくないのが、ファンというものです。

 

毎年20倍を超える難関を突破し、
タカラジェンヌになるための音楽学校へ入学してくるおとめたち。
熾烈な競争を勝ち残り、「スター」となれるのは、本当にごくわずかです。

 

在団中「通行人」「男A」「女B」ばかりをやったタカラジェンヌだっているでしょう。
そのおとめは、退団後にいったいどのような人生を歩むのでしょうか。

 

卒業する生徒は、宝塚の名物でもある「大階段」を呼ばれる26段の階段を降りてきます。
大階段のてっぺんに行くためには、その裏にある「陰段」をのぼります。
大階段には、ショーの最後にトップスターだけが立てる「0番」という場所があり、
卒業するタカラジェンヌは、皆その「0番」に立ちます。
そして、一番まぶしいスポットライトを浴びます。

 

その時の気持ちは、いったいどのようなものなのでしょうか。

 

もしかしたら、そのおとめにとって、やめるその時に浴びるスポットライトが、
いちばんまぶしいものかもしれない。

 

宝塚には俗に「自画自賛ソング」と呼ばれる歌があります。
「タカラジェンヌに乾杯!」やら「ああ宝塚わが宝塚」やら
「私はフェアリー」やら「フォーエバータカラヅカ」など、
自分たちをほめたたえる歌が多く存在します。

 

それがまた・・・いい歌なんですけどね(笑)

 

宝塚は、夢の舞台です。
タカラジェンヌというのは、現実に存在しているけど、とても不思議な存在です。
お客さんに夢を見せるために、
人生のもっとも充実すべき青春のすべてを舞台に懸けて、去っていく。
だれもが、去っていきます。
その美しい夢の跡だけが、わずかに残るだけです。
だからこそ、わたしはやっぱり、そのことを讃えたくなるのです。
タカラジェンヌに栄光あれ!と叫びたくなるのです。

 

ああ。
そんなこと考えてたら目と鼻から大量の水分が。。。

 

よく、同じ公演を何回も観て楽しいの?と聞かれますが、

 

楽しいです。(即答)

 

それ以外の答えはないです。
むしろ、まだ出会ってないそこのあなたが、
人生において重大な損失をしているのではないかとさえわたしは思います。
あ~もったいない。

 

もうすぐ本格的に、春ですね。

 

諭吉との別れも、まるで夢の世界のできごとのように感じますが、
通帳を見てリアルに夢からさめる今日この頃です。