異常な自己紹介あるいは情熱大陸(妄想)は3回を予定していますがそれが何か?  感動の最終回

われわれの取材はとうとう、最終日となった。

 

取材史上、こんなにも尺が足りなかったことはない。
マズい。これでは番組にならない。
しかも、広告の話を一度もしていない。
われわれは焦った。
カメラさんだって、
サングラスの陰できっと泣いてる。(かけてないけど)
もういい、ロングインタビューだ。ロングするしかない。

 

―あのう、実は、
―オッケー!

 

即答。あんたエスパーか。
尋常じゃねえ。インタビューだってわかったのか。

 

夕方、いきつけの居酒屋があるから、と外へ。

 

―ここへはよく?
―いえいえ、初めてですよ
―え? あれ、いきつけじゃないんですか?
―いきつけじゃないですよ、むしろ気をつけの姿勢!ビューティーですから!

 

気をつけの姿勢って?
っていうかビューティーって言えばいいと思ってるな・・・。
このままペースを持っていかれたら終わりだ。
何でもいい。何か話題をこっちから出すんだ。
そこから広告の話へ広げていくしかない。

 

―そ、そうですか。じゃあ気を取り直して。今どんなことに興味があります?
―そうですね、やっぱり、食べても食べても太らない薬とかマジで開発したいなっていうのはありますよね

 

・・・マジなのか?いやマジだな。
でもその太らない薬とやら、広告とオール無関係だけど!?

 

―太らない薬ですか
―そう。マラドーナとか太ってますよね。あ、個室お願いします。それと、みなさん飲まれます?あ飲まないですか。じゃあわたしジンジャエールで。あとウーロン茶を何個か。はいシクヨロ~。首ない感じですもんねマラドーナ。あと曙やら小錦やら、太っちゃってますよね。でも最近ね、よく考えるんです、どこからがデブなのかって

 

―デブの境界線?
―そうです。DEBU BORDER(デブボーダー)。100キロあったらデブかっていうと、デブ界では、100キロのデブでも、110キロのデブから「ちょっおまえ痩せてんなデブ~」みたいないちゃもん、つけられることあると思うんです。120キロのデブから、110キロのデブに向かって「おまえこそ顔ガリガリじゃんデブ~」とかいう誹謗中傷。じゅうぶんあり得ますよね、デブの中での「痩せてる疑惑」。起こり得ますよね、デブ界の血で血を洗う「痩せてる騒動」・・・

 

~衝撃スクープ!痩せてるアイツ!~
デa:おいデブ
デb:なんデブ?
デa:おまえ最近痩せたなデブ~?
デb:なっデデデデタラメ言うんじゃないデブ~!
デa:ボクにはお見通しデブ~!5重顎あったのが4.5重顎になってしまっているデブ~!
デb:ここれには深いワケがあるんデブ・・・
デa:笑止!おまえはもうデブとは言えんデブ!
デb:キャー!そんなの横暴デブ~!ひどいデブ~!
デa:おまえはもう・・・痩せている・・・
デb:イヤーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

これをわたしは、「デブによるデブ性の否定」と名付けます。だから、結局デブって相対化でしかないから、絶対的なデブはいないんですよね。世界で一番のデブも確かにいると思うんですけど重さ的に、つまりギネス的に。でも世界で一番デブ、つまりキングオブデブから見たら、みんな「非デブ」つまり「ガリ」なわけですよね。そうしたら「自分以外はデブと認めないデブ~」って言いますよねキングは。絶対そういうプライドありますよ、キングオブデブはね。「自分より軽い者はデブと名乗ることを禁ず!byキング」って。だから、わたし「デブ」ってほんとのほんとは憧れの対象だっていう、「裏の裏を返せばデブは勝ち組説」を主張します!

 

―デブは負け組どころか、人生の勝ち組である、と
―そう!

 

―具体的に言うと・・・
―つまり食べなきゃ増えない、食べられるのは豊かさの象徴。太るほど食べられるのは豊かな中でも最高ランクに豊か!と言えるわけです。だから「ガリ」は嫉妬してるんです、デブに。みんなそれをひた隠しにしてるけど、わたしにはわかります。そうこんなふうに・・・

 

~デーブとガーリものがたり~
ガ:すごーい。わたしそんなに食べられなーい
デ:そうデブ?
ガ:もうムリ。苦しー
デ:そうデブ?
ガ:残飯処理マジたすかるー!
デ:そうデブ?

 

ほらね。ガリ側のジェラシー半端ないでしょ。でもそれを隠して平静を装ってる。たすかるー!とか言って負け惜しみですからね。ちょっぴりふくよかな人も、キングオブデブには遠く及ばない。自分は中途半端じゃないか!と悩みますよね。なんてダメな人間なんだ!と自暴自棄に。つまり、自動的に「キングオブデブ一人勝ち状態」です!

 

―かなり思い切った新説ですね・・・
―マラドーナ太っちゃってますけど、でもアルゼンチンでは神様なんです。でもやっぱりサッカーの神様ってジーコかも。それにしてもアルシンド見かけませんね。まだカッパでツルツルなんでしょうか。なぜ坊主にしなかったんでしょうかね。ポリシーですかねやっぱり。もしかして・・・わたしたちが闘莉王だと思ってた人がアルシンドだったんでしょうか?

 

―いやいや!闘莉王は闘莉王です!アルシンドはアルシンドですよ!
―そうですよね・・・わたしったら世迷い言を。そうそう、こないだテレビで見たんですけどね太田光って爆笑問題の人。あの人は高校生の時、友達が0人でした。それでどうなったかというと、「飯がまずい」ってとこまでいっちゃったんです。基本ごはんってものは美味しい食べ物ですよね。なのに「おいしくない」「味がしない」っていう状態。おそろしい!おそろしい娘!おそろしい光!それでわたし、ハッとしたんです。人間はご飯を食べることで・・・

 

いやな予感がする・・・。

 

―・・・ご飯を食べることで?
―生きているんだって

 

予感的中!
はげしく意味わからん!

 

―え?
―驚きですよね。そんなことかと。そんな単純なことが真実つまりtrueだったのかと。だから今のわたしの言葉、ノーベル賞一歩手前かなって。その意味ではもはや、わたし=村上春樹かなって。彼のすごさって、エンターテイメントと文学の境界?そのギリギリの?ラインを?突いてきてる?ってことに尽きる?と思うんですよね?

 

―あのすみません、ちょっと話が・・・
―ああソーリー。わたし夢中になると周りが全然見えなくなっちゃうことがあって。ハッハッハッハッーそれがガガのキュート・ポイントじゃないかって、マムとダディからはエブリデイ言われるんですけど☆

 

待て待て待って待って待って待ってったら!
おかしい。おかしいぞ。
変だ。いつの間にか完全にペースを握られた。
さっきまでデブの話してなかったっけ?
何で今ガガの話になってるんだ?
飛んだのか?ぶっ飛んだのか?

 

―ガガですか?
―ええ、ガガですよ。彼女は今世紀最大級に偉大ですよね。しかも性格いい。本物のお嬢様ですから。でもストリッパーとして生計立ててた過去があったり。あのパフォーマンス、すごく作り込んでるでしょ。見世物っていうか。やりすぎでしょ。過剰ですよね。でもそこがカッコイイでしょ。21世紀では誰もマネできないんじゃないですか。狂ってるのがクール!っていう。しかもちゃんとメインストリームにいる。受賞式かなにかでピアノ弾いて歌ってましたけど、曲がクライマックスになって、鍵盤の上にいきなりね、片足乗せたんですよ。こう、ドーン!と

 

彼女は真っピンクのタイツを履いた片足をぐっとあげてみせた。
そして、そのまま静止してその時のガガを再現。
BAAAAAAAAAAD ROMANCE!BADすぎる!
でたなMonster!こ、これがThe Fame Monster!?
危険だ!生放送だったら放送事故レベルだ!
やめさせよう。やめさせるんだ!
いや警察か!?警察にTelephoneか!?
今すぐやめ・・・ってまだ意気揚々と話し続けてるぅ!フゥー!

 

―もう、ここしかないっていう。足ドーン!はそこ!っていうタイミングなんですよ。かかとがバカ高いヒール履いてて、真っ白の。足あげたまま、シャンパンひと口こう飲みます。ピアノをジャーン弾いて、熱唱。終わり。めっちゃかっけえ!!って半狂乱アルねわたし。エリザベス女王に謁見してましたけど、さすが女王は肝が据わってましたね。「よろしくねガガ」みたいな。ガガもお嬢様だから、礼儀正しく「こちらこそ女王陛下」みたいな。ガガの曲は渋谷とかでガンガン流れちゃう曲で、そこも好きですね。ベタなのにスケールデカくって。ほんと好き。一言で言うとね、もうほんと好き

 

ダメだ!限界だ!テープ残量もヤバい!
カメラさんの殺気がカメラ越しに刺さって痛っ!
わわわわかりました!痛い!殺気混じりの視線痛い!
このままじゃ殺られる!やります!やりますって!
させます!広告の話させます!だから殺さないで!
不本意だが強引に!広告の話を!ここでズバっと!

 

―ええっと、じゃあそろそろね、宴もたけなわってるんで広告のお話を・・・
―広告って、奥が深い。それはほんとに思います

 

―奥が深い、ですか
―わたしが常に思うのは、ガガに見せて恥ずかしくないものを作りたい、それだけですね

 

―それだけ?
―それだけです

 

―ほんとに?
―ほんとに

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・短っ!!
あの瞬間、その場に居合わせた全員がそう思った。
追加の厚焼き玉子を運んできた店員だって、口あんぐりしてた。
っていうか、何でピンクの足テーブルにのせたまま?
てっきり明太マヨ的な何かかと錯覚したじゃないか。
でもしょうがないだろ。
彼女、誰よりも楽しそうだったしさ・・・(遠い目)。

 

尺はとれた。きっととれたよ。
取材になったのか。取材になったよ。これが情熱大陸だよ。
気づけば明け方だった。

 

―今日のご予定は
―モグモグで、そこモグゴクググ、モグゴググモゴゴモグます

 

最後まで、意味不明。

 

そうしてビューティー、いやピンクのタイツは、
朝日に照らされた銀座の街並みへ消えて行った。
カメラさんがカメラを下ろした。
ここで取材終了。総取材日数3日。

 

でも、最後の朝日のシーンはちょっといい画だった。
カメラさんもきっと、
サングラスの陰で泣いてんだろうな。(かけてないけど)

 

後日、内容全体にNGが出された。
地上波で放送できると思ってんのかって。

 

だから。
そう、お蔵にお入りになったのだった。