異常な自己紹介あるいは情熱大陸(妄想)は3回を予定していますがそれが何か?  その2

取材2日目。
今日こそは実り多き取材になりますように。

 

9時には会社にいると聞き、
われわれは彼女のデスクを訪ねた。

 

いた。

 

―早いですね。それに今日はお化粧も
―ええ。注文した新しい顔、今朝届いたんで。やっぱり新しい顔っていいですね!焼きたてホカホカ!って感じで。おじさん、ありがとう!(カメラ目線)

 

若干、カメラさんが後ずさりした気がした。
いやいやまさかね。

 

鏡に映った寝起きの自分以外、怖いものがないカメラさんだ。
『シティーハンター』の海坊主並みのガタイを持つカメラさんだ。
一人では解けない愛のパズルを抱いて~いるカメラさんだ。
そうさ。

 

後ずさりするわけない。
ないないないそれはない。

 

―ああ、なるほど。それで今日はメリハリがすごく、ハッキリしてる
―ええ。凹凸ちゃんとだしてみたって。おじさん、ありがとう!(カメラ目線)

 

―凹凸もさることながら・・・ハイライトが・・・
―ええ。いわゆる「照り」ってやつですかね!おじさん、芸が細かい!(カメラ目線)

 

ドン!と大きな音。カメラさんの引いた足が壁に当たった。
今度ははっきり、カメラさんは体全体で後ずさりした。
というより、のけぞった。
どアップにしてたんだろうな、「照り」を。

 

どれくらいの光量だったのかはカメラさんのみぞ知るけど、
きっと、見たこともない「新しい顔」だったんだな。
つまりこう、想像を絶するような・・・まばゆい・・・
っていうかまぶしい・・・顔

 

冷房のきいた社内で、カメラさんの首に汗がつたった。
生唾をのみこむ音さえ、聞こえた気がした。

 

―あれ、腕に包帯されてますね?
―ああ。今朝階段から落ちて一回転して。間一髪でした。骨に異常なし!
―だだいじょうぶですか?
―だいじょうぶ!ビューティーですから!美顔が守れたんでOK!

 

ひとしきり豪快に笑い、そのあとは黙々とパソコンへ向かう。
肝心なことは何も見せない教えない。
というより肝心なことがないのかもしれない。

 

―今回のクライアントは、難しいですか
―ジャイアントパンダ?

 

―いや、ジャイアントパンダではなくて、クライアント・・・
―なるほどエチゼンクラゲのことですか。あれはね、デカイですよ。ほんとデカい。ちょっとしたバランスボールか?ってくらいのやつ、ゴロゴロいますから

 

―あ、いや、エチゼンクラゲっていうか・・・
―もしかしてイリオモテヤマネコのお話でしたか。そうですよね。イリオモテヤマネコの話をしないなんて人間失格ですよね。うかつでした。ごめんなさい。イリオモテヤマネコね、じゃあ特別にわたしのアレお見せします

 

と言って彼女はやおら席を立ち、「ハイ!」とかけ声を自分でかけ、
イリオモテヤマネコ?のマネを披露。

 

ハイ、微妙!!

 

似てる似てないの2択なら、似てないよマサルさん!
ツヨシ!しっかり見なさい!
懐かしいな・・・ブタゴリラ。
ああああ脳内懐かしアニメ情報が勝手に!
落ち着け!だいじょうぶだ。たかがモノマネだ。
でも、顔が真剣すぎやしないか。
「似てないっす」と言ってやめてもらえる雰囲気じゃない。

 

彼女はそのままイリオモテヤマネコ?のマネをし続けたので、
われわれもカメラを回し続けた。

 

この日はそれ以降のVTRがない。
テープがなくなったのだ。

 

どんだけ撮ったんだよ。

 

われわれはがっくりと肩を落とし、2日目の取材を終えざるをえなかった。