従兄の回

毎日、暑いですね。

 

男兄弟もいないのに、小さい頃は少年マンガをよく読んでいました。
ドラゴンボールもスラムダンクも連載していた「ジャンプ」を、
この続きがどうなるのかワクワクしながら発売日を待っていました。
今のようにSNSなんてなかった時代です。
だれともシェアしませんでした。
わたしにはネタバレという概念自体がありませんでした。
雑誌のコマを撮って画像を貼り
うまいことを言って大喜利をすることもなかったし、
二次創作も知りませんでした。
近くの駄菓子屋さんに置いてあったジャンプは、
200円未満で買える別の世界への入り口だったのです。

 

わたしの中で「ジャンプ」は従兄の思い出とセットです。
近所に住んでいた従兄に170円を持たされてジャンプを買いに行かされました。
いわゆるパシリですが、まぁわたしも読みたかったのでよしとします。
でも、その週は170円ではなく190円のちょっと高い増刊号だったんです。
当然買えなくてわたしは従兄の家に戻りました。
すると、従兄が「170円で買ってこい」と。
従兄、横暴すぎやしませんか。

 

従兄は、不良を自称する背の低い男の子でした。
「オレが卒業してから◯◯(学校名)から不良はいなくなったな」
と、よく言っていました。

 

夏休みになると日中従兄の家に預けられたせいもあって、
従兄はわたしを手下にしようと、あれこれ命令をしてきます。
長渕剛が好きだった従兄は、ビデオを居間で流して、
「一緒に歌え」と強要。とんだ不良です。
わたしはその武道館コンサートだか、ドームコンサートだかの
長渕剛の映像を見ながら、見よう見まねで歌ってみました。
従兄は映像の中の長渕剛の熱唱に涙ぐんでいました。
わたしの歌、要る?

 

従兄が遊んでいたファミコンを、わたしもやらせてもらっていました。
今でもふとやりたいな、と思うのは、
その当時遊んだ記憶のあるソフトなんですよね。
「さんまの名探偵」は面白かったです。
従兄は、その当時の男の子が憧れたものを追いかける人で、
ボクシンググローブをしてシュッシュってやっていたり、
背の低さを活かして騎手になろうとして
「ダービースタリオン」という競馬ゲームをやりこんだり、
長渕剛を愛していたり、
F1レースが好きでF1のゲームをしたり、
ポマード(当時の整髪料のことですね)を撫でつけていたり、
とにかく、彼のなかで「イカしている」ものを
手当たり次第触っておくという感じでした。

 

結局、ボクサーにも、騎手にも、F1レーサーにも、
彼はならずに、地元の企業に就職したと聞きました。
不良だった従兄も今は家庭を築き、いっぱしの大人になったのです。
いつかの法事で見かけたことがありますが、
小さな背中を丸めたいい年のおじさんになっていました。
その時の、かどが取れて人生に疲れた顔で煙草を吸う従兄が、
まだ、あの、長渕剛に涙していた夏休みの時間の中にいるような気がして、
不思議な気持ちになりました。

 

従兄の思い出は、なんだか煙草の煙みたいにけむたくて、めんどうで、嫌です。
だから、今更会いたい気持ちは全然ありません。
長渕剛を歌いながら元気に生きていてほしいなと思います。
わたし、いい従姉妹ですよね。