「一つ、聞いていいですか?」

全米オープンの決勝を、わたしは家族と見ていました。
あの試合は、さまざまなことが起きて、
異様な雰囲気はテレビ越しにも伝わってきました。
大坂なおみ選手が優勝を決めた瞬間。
歓喜の爆発というよりももっと複雑なものが
彼女の顔に満ちていくのを見ながら、
素晴らしいことを成し遂げた美しい人を、ただ見ていました。
優勝、おめでとうございます。

それは、まだ夏が名残惜しそうに離れない9月のはじめ。
突然のことでした。
わたしはその日、とある劇場で、とある興行の初日を観ていました。
あえて名前は伏せますが、それは半日がかりといっても過言ではない、
長時間上演されることで世界的にも有名な興行です。

「一つ、聞いていいですか?」

 

驚きました。
興行を観に行って話しかけられる経験は、実は前にもあったのですが、
続けざま、隣に座っていた女性はわたしにこう言ったのです。

 

「どうやって初日のこんないい席が取れたの?役者?関係者?」

 

こんないい席、とはどんないい席かと言うと、
一番舞台から遠い、そして安いB席の最前列です。
B列じゃありませんよ、3階のB席です。
舞台を見慣れている玄人にとっては確かに非常に良席だと言えるでしょう。

 

でも、いきなり失礼すぎませんか。
それも、一回目の休憩では何も言わず、二回目の休憩のときでしたから、
わたしがどう見ても「初日のこんないい席」に座るような常連ではない、
そう彼女には見えたのでしょう。
値踏みされていたのかと気分が悪くもなります。

その女性の顔には、こう書いてあるみたいでした。

 

「この初日のチケットにどれだけ価値があるのかわかっていない小娘め」

 

考えすぎだろう、とあなたは思うかもしれません。
でも、人とひととが関わりあうためにはコミュニケーションが必要で、
まずもってお互いに「あなたを攻撃するような武器は持ってませんよ」と
友好的に握手をするところから始めるべきなのに、
その人はまるで鋭い切っ先を突きつけるようなポーズなのです。

 

わたしはあいまいな返事をしました。
こちらの答えが要領を得ないと言わんばかりに不満そうな女性。
いやいやいや。
あなたを満足させるような答えを言わなければいけないのWHY?

 

休憩時間が終わりました。火が消えるように話も終わり、
苦労して取った(取ってもらった、らしいですその女性の話だと)
「こんないい席」で、その女性はスヤスヤ寝ていました。

 

いや寝てんじゃん!
まぁわたしも後半寝たけど!
おあいこですね!じゃ!

 

また8月のある真夏の日。
猛暑のお昼、急いで最寄駅に向かう途中に
人の良さそうな女性にこう話しかけられました。

 

「すみません〜!スイーツの訪問販売で試食のお願いをしているのですが」

 

道や場所を聞かれると思って立ち止まったわたしは数秒後ハッと我に返り、
急いでるのですみません、と断りました。

 

一つ、というか四つ、聞いていいですか?

この炎天下に冷菓でもないスイーツを食べる気になりますかね??
マーケティング不足という線はありませんか??
自分によく問いかけてみて??ふつうのお菓子溶けません??
あとわたしすごく急いでいるの感じませんか??

 

コミニュケーションの基本は、相手をよく見ることですよね。
お姉さん、がんばってください。


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